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2013-4-29

オランダ発の「コーフボール」というスポーツ

2013/04/29

 ヨーロッパでは有名な『コーフボール』という男女混合のボールスポーツを、読者の皆様はご存知だろうか?1902年オランダの教師ニッコ・ブロークフィセにより、バスケットボールを基盤として考案されたこの競技は、すでに世界59カ国の国々が国際コーフボール連盟(IKF)に属し、ヨーロッパを中心に多くの国に普及している。当時のニッコ教師は、学校教育に導入できるような男女混合スポーツを探求しており、同競技の考案に至ったとされている。このニッコ教師の哲学を引継ぎ、コーフボールは現在にいたり唯一の競争型男女混合ボールスポーツとしての地位を確立している。なおアジアでは台湾、香港などが精力的に活動に取り組んでいる。

<非常に完成度の高い“男女混成の競技スポーツ”として認知されているコーフボール。“コーフ”とはオランダ語で“バスケット”を意味している>

 オランダ語で“バスケットボール”を意味するコーフボールという言葉から想像できるように、バスケットにボールを入れるという目的がゲームの基本概念となる。その性質上、バスケットボールやネットボールとの共通点も多くある。しかし、コーフボールでは、「①ドリブル禁止、②男女混合スポーツ(各チームに男女4人ずつ、合計8人)、③ゴールの周り360°どこからでもシュートが可能」という独自の概念も存在する。

 コーフボールはその「ドリブル禁止」という特徴から、パスワーク中心のゲーム展開、男女共同での連携プレーが重視されるスポーツだ。私が初めてコーフボールの試合を見学した時は、その素早い連携に魅了されたのを覚えている。またパスワーク中心の展開は、選手の空間知覚能力を高め、スペースを利用した流れるような攻撃が特徴とも言える。

 コーフボールの歴史を見ると、1970年代に始まった女性の盛んなスポーツ参加や男女の雇用均一化などの風潮に後押しされて、第1回世界大会が行なわれた。その後1978年よりに現在にいたり、「コーフボール世界選手権」が4年間隔で開催されていて、その規模を拡大している。2004年には、台湾で第1回アジアコーフボール選手権も行なわれるなど、アジアでも着実にその地位を確立しつつある。さらに2011年世界大会は中国で行なわれ、今後のさらなる国際化が期待されるスポーツの1つだ。優勝常連国は“発祥の地”、オランダ(8度の優勝)であり、続いてその隣国のベルギー、アジアの強豪台湾、香港、ドイツ、イギリス、その他のヨーロッパの国々が成績上位を占めている。日本では、1991年に東京で行なわれた普及講習会を手始めに、コーフボールの活動が始まった。

<2012年冬、台湾の首都台北でのコーフボールの練習風景。平日にも多くの青年達が練習に参加しており、真剣な練習風景が印象に残った>

 それでは以下に、コーフボールの主なルールを紹介する。

● 試合は前後半30分ずつ

● ピッチは攻撃ハーフと守備ハーフに分かれる

● ドリブル禁止(ボール持ってから移動できるのは2歩まで)

● シュートは360度どこからでも打つことが可能

● 男女混合でも、異性をマークすることは禁止

● ボールを持った選手などに対する接触プレーは禁止

● ディフェンスの至近距離にいる場合、オフェンスがシュートを打つと反則

<守備コートと攻撃コートに分かれて、2ポイントごとに攻守が交代する。そのため選手には守備、攻撃をこなすオールラウンドな能力が要求される>


「ドリブル禁止」

 コーフボールではドリブルが禁止されている、つまりパスでゲームを構成することが義務付けられていることを意味している。同時に接触プレーも禁止されているため、素早いパスワークやスペースを作り出す戦術動作が重要視されるゲーム性質がある。常に味方のパスコースを作り出し、チームプレーに徹することがこのコーフボールの最も重要な哲学の1つでもある。また自己中心的なプレーに走ることなく、男女混成でチームプレーを理想とする同競技のエッセンスがこの「ドリブル禁止」というルールにある。

<3.5Mの高さのリングにボールを入れればポイントとなる。バスケットのように長距離からの3ポイントシュートは存在せず、全てのショットが同じ得点でカウントされる>


「どのエリアからでもシュートが撃てる」

 バスケットやバレーボールでは得点方法に多くの制限が設けられている。またフットサルやハンドボールなどではキーパーの存在が大きく勝敗を左右する。しかしコーフボールでは、360度の角度から、自由自在にシュートすることが可能となっている。またオフェンス側でシュートする選手は、ディフェンスに詰め寄られた状態ではシュートすることができないルールが存在する。つまりシュート動作を実行する選手は、相手DFから一定の距離をとる必要がある。そのため素早いパスワークや集団戦術で、味方にスペースを与えてフリーにさせる“頭脳派プレー”が要求される。“フリースペースを作る、埋める、利用する”といった現代ボールスポーツの要素がしっかりと詰まったスポーツでもある。


「男女混合、異性のマークは禁止されている」

 男女混合でプレーできることもコーフボールの大きな特徴だ。ルールにより異性をマークすることが禁止されているため、マッチアップする対戦相手は常に同性の選手となる。そのため男女の身体能力の差などによるゲームのアンバランスなどが生じにくい。これもコーフボールが男女混合スポーツとしての地位を確立した大きな要因である。また現在にいたり、コーフボールは競技レベルで唯一の男女混合スポーツの地位を確立している。

<男子のプレーヤーには男子がマーク、女子には女子がマッチアップする。コーフボールでは、可能な限り異性間の能力差が試合に影響しないように考慮されている>


「接触プレーは禁止されている」

 コーフボールの選手は、フィジカルコンタクトによって有利な立場に立つことを禁じられている。したがって選手は体格差や身長差などを克服することが可能となる。この身体的条件に囚われずに男女が競技に参加できるというコンセプトは、コーフボールが生み出された当初の男女の平等概念に富んでいる。


「様々なグラウンドで楽しめる」

 コーフボールは本来は芝生のピッチで行なわれていたが、現在では室内競技としての定着進んでいる。またゲームの本質上、ビーチや学校の校庭などでも同競技を楽しむことが可能となっている。季節や環境に合わせて、様々な場所でこの競技を楽しむことができる。そのためコーフボールの普及性は至って高いものと考えられる。


<本来は芝生で行なわれていたコーフボール。砂浜、公園、学校の校庭などでも簡単に練習できるのも大きな魅力である>

 オランダやベルギーでは盛んに行なわれるこのコーフボールだが、イングランドやスコットランドでは大学リーグなども盛んに行なわれ注目を集めている。スペインではカタルーニャ地方などで、男女混合というその特徴から学校教育にも導入されている。男女差別をなくすために、チームプレーが重視されるこのコーフボールが学校教育に最適な競技と唱える意見も少なくない。なお欧州のアマチュアクラブは週に2―3回、毎回90分のトレーニングを行なうことが一般的となっている。


<オランダ、ベルギー、イギリス、スペイン(カタロニア地方)、ドイツなどの国でコーフボールは積極的に展開されている。学校教育への導入、大学における男女混成スポーツとしても普及が続いている>

 またコーフボールの競技的側面に注目すると、得点シーンのほとんどが鮮やかなパス交換、フリーランニング、フェイントなどの戦術動作から派生している。チームワークが必要不可欠で、ダイナミックな個人技こそ少ないものの、連携重視の試合展開は見ていても爽快だ。特に私の印象に残ったのが、2人組、3人組での連携攻撃であった。とにかく、ドリブル禁止、360度のシュートアングル、密着マークの状態ではシュートできないルールなどから、様々な連携プレーが楽しめる。いくつかのクラブを取材しての感想だが、コーフボールは日本人の気質や身体的特徴には似合っている競技ではないかという印象を受けた。レクリエーション、各スポーツクラブの息抜きなどに、是非機会があれば「コーフボール」で遊んでみてはいかがだろうか。


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。