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2013-7-22

スペインフットサル指導者協会(ANEFS)


2013/07/22

*スペインフットサル指導者協会(ANEFS)による指導者講習会

 先日スペインフットサル指導者協会(以下『ANEFS』)が主催する指導者講習会に、取材許可をいただいて参加してきた。指定会場にスペイン全国から60名を越えるフットサル指導者の方々が集まり、様々なテーマを3日間討論したり、練習方法を披露したり、意見交換をしながら交流を深めるというイベントである。今回の講習会はスペインカップという4日間で行なわれるフットサルトーナメントに合わせて開催されていた。そのため参加者にとっては、午前から午後にかけて講習に参加、夜は全国のトップクラブが集まる大会を観戦するという盛りだくさんのイベントとなった。

 今回の講習会が行なわれたのは、スペインの首都マドリーから約30kmほど離れたアルカラ・デ・エナレスという小さな街だ。アルカラ・デ・エナレスの大学と歴史地区は、ユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されており、世界で最初の計画的な大学都市であること、都市計画がアメリカ大陸やヨーロッパでのモデルとなったことなどでも有名だ。フットサル界では、スペインの象徴として君臨し続けたインテル・モビスターがこの街に本拠地を置いている。

 

<散歩するには程よい規模のアルカラの街>

 

 まず何よりも特筆するべきことは、参加者間によるコミュニケーションの積極性だ。スペイン全国から集まった60名を越すフットサル指導者が真剣に、経営、指導、運営、契約といった様々なテーマに対する解決方法をマイクを回しながら討論する。このANEFSの講習会は、大切な意見交換の場所という役割も果たしている。

 ANEFSには、全国にあるプロクラブや競技レベルで活躍する指導者が多数登録しており、今回の講習会にもプロクラブや代表レベルで活躍する指導者が名前を連ねていた。参加者にとってはテレビのスクリーンでタイムアウトなどの指示を出す監督達と、直接フットサルについての意見を交換できるとても貴重な機会だ。普段は各自のクラブでの仕事に追われ、他クラブとの意見交換などに費やす時間がない指導者の方々も、このような機会に自分達のクラブ哲学や練習方法について、全国の指導者達と研鑽する。

 その他にも今回の指導者講習会では、テレビ解説者など豪華ゲストも招待され、実に真剣なフットサルを取り巻くテーマに取り組んでいることに大きな共感を感じた。また日本のFリーグの名古屋オーシャンズを2013年から率いることになったビクトル・アコスタ監督も、その他のスペインプロクラブの監督らと共に2日目の実演会に参加していた。それでは以下に、全日程3日間の講習会のテーマや講義内容をまとめてみる。

*スペインフットサル指導者協会のプログラム内容

*1日目『ANEFSの活動報告、現状と未来』

 初日の午前9時40分頃から、まずは簡単にANEFSの活動報告が行なわれた。どのような規模で、どのような活動内容に従事しているのか・・・今年度の活動内容、来年以降の事業計画を発表、続いて参加者らによる質疑応答も行なっている。またANEFSによるオンラインコースの授業内容など、普段はなかなか話し合えない内容を積極的に話し合っていた。

*アマチュア選手、コーチ陣の間に発生する契約について

 スペインでは無数とあるフットサルクラブ。多くのクラブの場合、指導者とクラブ側には金銭面での契約が生じることも稀ではない。様々な権利の問題などが生じることは多くの参加者にとっても現実味のある話しだ。スペインではクラブと指導者の間で交わされる「①個人契約」、「②クラブ契約」、そして連盟などを仲介して行なわれる「③連盟契約」などが主な契約体系として存在する。それぞれの契約の長所と短所などを、専門家の意見を通して討論するという内容であった。

*アマチュアクラブ下部組織の運営方法

 続いてアマチュアクラブ下部組織の運営方法という題目で、スペインの首都マドリー州を代表する3つのアマチュアフットサルクラブの代表者らがそれぞれのクラブ運営理論などをパワーポイントで紹介した。「① Moprisala」、「② Las Rozas」 、「③ Labastida」という大勢の下部組織を抱えるフットサルクラブのコーディネート作業の内容や、それぞれのクラブが抱える問題、特徴を参加者と共有した。競技、運営面での向上を目指すクラブの指導者にとっては、全国を代表するような育成クラブの経営方針などは参考となっただろう。

 またクラブとスポンサーの関係性、トレーニング環境の割り当て、年齢ごとにおけるコーチ陣の形成方法、経費の管理方法など、各クラブの経営哲学や風習を学ぶことができた。スペイン全国から集まった指導者の中の多くには、少年クラブなどを経営している方も多数いた。そのため地方やクラブごとに異なる経営方法や練習環境には、参加者から多くの質問が飛び交った。


<全国を代表するクラブとの意見交換などは魅力的だ>

 

*マイナースポーツとテレビ放映の奮闘

 そして12時半を過ぎた頃から、フットサルというマイナースポーツの将来について、大手テレビ会社の有名な解説者を招待して意見交換が行なわれた。スペインフットサルは、サッカーなどに比べるとまだまだメディアでの露出度も低く、知名度がなかなか上がらない。その状況でどのようにして、地域からマイナースポーツのフットサルを盛り上げて状況改善をするか、について話し合う時間ともなった。

 マイナースポーツの業界を盛り上げるには、メディアとしての立場から見てどのような工夫が必要となるのか・・・フットサル現場で働く指導者や経営陣には手の届かない情報や苦悩を、テレビでおなじみのフットサル解説者がメディアの視点からアドバイスする機会となった。詳しくは「第38」回の後半部分「マルカテレビによる様々なフットサルマーケティング」において紹介している。


<様々なプロフェッショナルを招待してフットサルを討論する>

 

*2日目『プロクラブの指導者によるフットサル実践指導』

 2日目は初日の経営理論などのテーマから一転して、室内フットサルコートにおける高度な練習内容などの実演会となった。体育館のコートと地元クラブのユース選手達を動員して、約4時間半、プロクラブで活躍する監督6名が入れ替わりにテーマごとの練習内容を担当した。各指導者に割り当てられた時間は40分で、それぞれがテーマごとに最先端や独自の練習方法を紹介するというものだ。

 やはり大勢の指導者の目の前で実践するということで、各監督ともに見ごたえのある練習内容や哲学を披露してくれた。進化を続けるスペインフットサルを象徴するような、レベルの高い練習内容も見られた。また2013年より日本の名古屋オーシャンズを率いることになる、ビクトル・アコスタ監督の指導も目の前で見ることができた。なお2日目の『プロクラブの指導者によるフットサル実践指導』のテーマは以下の通りである。

<プロフェッショナル監督らによる練習方法の紹介>

① 決断能力を向上させるための練習方法(カルロス・サンチェス氏)
② プレスディフェンスを向上させる練習方法(ラウル・アセニャ氏

③ プレス回避を向上させる練習方法(ビクトル・アコスタ氏)
④ ゴールキーパーの物理反応を向上させる練習方法(モン・バレイロ氏)
⑤ 3-1、ピボットを用いた攻撃の練習方法(リカルド・イニィゲス氏)
⑥ 4-0、ピボットを用いない攻撃の練習方法(ダビッド・ラモス氏)


<現在、日本で活躍するビクトル監督も実演に参加していた>

 

*3日目『ANEFS・フットサルミーティング』

 最終日の3日目は「フットサルミーティング」という題目で、練習や試合に関する理論についての話し合いが行なわれた。1日目よりもさらに、クラブ間での意見交換も深まり充実の内容となった。それぞれのクラブにおける、攻撃時の決まりごとや、数的不利、特殊な局面における対処方法などを、自由参加型で戦術ボードを介しながら討論し合った。

 また試合戦術の構成理論、そして試合前の戦術ミーティングにおける話し合いの内容なども討論された。試合前にトップレベルの指導者はどのような指示を選手に与えるか、難敵との試合にどのような戦術で試合を運ぶのか・・・経験豊富な指導者の声も聞け、またプロ、アマチュアクラブにおける格差なども話し合われた。なかなか手の届かない情報が満載されて、多くの参加者が熱心に耳を傾けていた。

<フットサルミーティングの主な討論内容>

① 現代フットサル攻撃理論の分析
② 現代フットサル攻撃理論の発展方法
③ 特殊な試合局面における対処方法
④ 数的不利、キーパーの攻撃参加について
⑤ 戦術コンセプトの定義
⑥ 試合を控えての選手とのミーティングについて
⑦ スペインカップの傾向分析、決勝戦の展望など


<ANEFSはウェブサイトなども非常に充実している>

 

*ANEFS『スペインフットサル指導者協会』について

 それでは今回の指導者講習会を企画したANEFS(スペインフットサル指導者協会)について少し紹介してみたい。1998年に全国規模でフットサル指導者を対象とした育成、イベント、交流活動を企画するためにANEFSは誕生した。会員制となっており、フットサル指導者または指導者を目指す人の全てが参加対象となっている。

 ANEFSは年会費制となっており、年間50ユーロで以下のような特典を受けることができる。

① ANEFSが企画するイベントなどへの無料での受講
② ANEFSが主催する指導者育成プログラムにおけるディスカウント
③ クラブとの問題に対する無料でのコンサルティング
④ 技術部が保有するテクニカルレポートなどの共有
⑤ 『ANEFS.DOCS』と呼ばれる練習ノートやレポートの共有
⑥ 会員とのフォーラムによる意見交換、コンサルティングなど
⑦ ANEFSチャンネルを通してWEBサイトへのアクセス
⑧ 『ANEFS.TV』を通してのクリニック、指導者講習会の映像へのアクセス

 また以下にANEFSの内部構造を簡単に図を用いて紹介する。会長のパコ・カチネロ氏にインタビューしたところ、国際部や雇用部門などは現段階では未展開とのことだ。今後も様々なイベントや指導者育成などのイベントを通して、スペイン国内だけでなく多方向へと展開を図るということだ。例えば提携を組むRANKING社のスポーツグッズのディスカウントや、クラブと指導者の間に発生する問題解決への法律的解決などである。

 そしてANEFSの会員特典の魅力的なものには、スペイン全国で毎週開催されるフットサルリーグへの年間無料アクセスが含まれることも挙げられる。

<ANEFSの内部構造>

会長
秘書
経営部
スポーツ部
人事外交部
法律部
マーケティング部
技術部
育成部
雇用部
国際部


<元指導者でフットサルを心より愛しているパコ会長>

 

 取材の最後に、ANEFSのパコ・カチネロ会長から日本の方々に向けてメッセージをいただいた。非常に熱心な方で、インタビューを通して彼らのこのプロジェクトに懸ける意気込みが伝わってきた。

 「日本のフットサル選手や指導者の方が、わたし達のプロジェクトにはすでに20人ほど参加していますよ。アジアの国々ではもちろんそのようなフットサルに対する情熱を持った国は日本だけです。私たちが日本の指導者のために貢献できることがあれば、積極的に協力しますよ。もしANEFSの活動が、日本の皆様にとって何かの参考にでもなればと思います」

- パコ・カチネロ会長(ANEFS)

馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。