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2013-9-2

セカンドコーチの役割について

2013/09/02

 私は2010年、ある国際バレーボールトーナメントで、セルビア代表女子チームのコーディネート兼通訳を務めた経験がある。某国際トーナメントの開催から約20日の間、トレーニングと試合の続く緊張した日々となった。セルビアのチームには選手以外にも、団長、監督、補佐、フィジカルトレーナー、ドクター、庶務などの多くのスタッフが帯同しており、互いに連携を取り合いながら協力し合っている姿が印象に残った。

 実際のゲームでは、テレビを見ると選手や総監督ばかりにスポットライトが当るが、各ボールスポーツでは実に多くのスタッフが1つのチームを支えているのだ。私が今まで取材したスペイン国内のボールスポーツクラブでも、監督以外の多くのスタッフが、日々の練習や試合の中で大切な役割を果たしている。

 

 まずはフットサル競技を例にとって見よう。スペイン北部の強豪サンティアゴ・フットサルクラブでは、試合を見ると実に7人ものスタッフがベンチ入りして試合を管理している。また彼らの毎日の戦術練習を見ても、やはり少なくとも5人のスタッフがいる。そしてボール拾いや後片付けを手伝うスタッフも徘徊している。スペインの首都マドリー近郊に本拠地を置く、名門インテル・モビスターの練習にも、やはり5人くらいのスタッフが同席している。その隣町にあるスペイン2部のカルニセル・トレホンでも毎日のトレーニングを4、5人のスタッフで管理している。

 その他の競技を参考に見てみよう。デポルティーボ・コルーニャ(サッカー・スペイン1部)、リセオホッケー(ローラーホッケー・スペイン1部)、オブラドイロ・バスケット(バスケット・スペイン1部)、など・・・多くのクラブ練習を取材しても、各クラブにそれぞれ6人ぐらいのスタッフが練習に同席している。なお少しカテゴリーを落として全国2部、3部のボールスポーツクラブを見てみると、コーチ陣3人ほどで練習を統率することが一般的となっているようだ。

 それでは一体どのようなスタッフが、毎日のクラブのトレーニングなどに参加して、チーム作りに協力しているのだろうか?まずは以下に、欧州における主なスタッフの種類を紹介してみたい。各ボールスポーツクラブによりスタッフの種類や数は異なるものの、多くのトップクラブの場合、トレーニング現場にどのような人材を揃えているかを参考にしていただきたい。

① ヘッドコーチ(総監督)
② セカンド (監督補佐)
③ フィジカルトレーナー
④ キーパートレーナー
⑤ フィジカルドクター
⑥ スポーツ・メンタルドクター*
⑦ アシスタント(庶務)
⑧ デレガード(時間管理/専務)

<注釈: スポーツ・メンタルドクターについて>

* ここでの”スポーツ・メンタルドクター”についてだが、『ボールスポーツの勝敗は80%が気持ちの問題』とも表現されるように、メンタルドクター(精神医療士)の重要性は念頭に入れておきたい。もちろんクラブの経済状態によって、メンタルドクターを雇うことは困難だが、指導者としてチームの精神状態については注意を払いながら対応したい。ロッカールームでの雰囲気が、練習内容やチームのコンディションに多大な影響を与えることは明白だろう。参考までに、「Vol.22 スペインサッカーのメンタルドクター」のコラムをご覧いただきたい。

 

 このように1つのボールスポーツクラブには、会長職やコーディネーター以外にも様々なポジションが存在する。しかしどんなボールスポーツクラブでも、現実的には毎日の練習現場に7人ものスタッフを抱えることは困難だろう。そのため多くのプロフェッショナルクラブの場合、フィジカルトレーナー、メンタルドクター、アシスタントなどは研修生またはボランティアに任せることで費用を節約している。

 スペインでのフィジカルトレーナーだが、クラブによってはトレーニングの日程に合わせて、アルバイト形式でトレーナーを雇う場合が多い。選手の個人データなどをしっかりと保存できるような、専門のトレーナーに毎週のトレーニングに来てもらうことが通例だ。そしてキーパーコーチは、アシスタントや控えメンバーなどで補充されるが一般となっている。実際、私が取材した多くのアマチュアクラブでは、アルバイト、研修生、控えメンバー、見習いのボランティアなどで実に多くの仕事を分担していた。

 

 さて今回のコラムの主題となるのが、チームの組織内でも大切な機能を果たす”セカンドコーチ”の存在だ。エリートレベルのボールスポーツに必要不可欠なこの存在が、総監督の補佐官を務め、クラブ内の様々な問題を担当するのだ。理想のセカンドとは、練習から試合まで総監督の右腕となって存在感を放つ存在でもある。スペインではお馴染みの存在だが、このセカンドにはどのような役割が求められているのか、コラムのテーマとして考察したい。

 まずこの”セカンド”と表現される監督補佐のプロフィールを考察してみよう。絶対条件として監督が絶対的信頼をおく人材が好ましいだろう。クラブがセカンドとなる人材を指定するか、総監督が決めるかは各クラブにより異なる。またセカンドには大きな責任能力が問われ、クラブに対する義務を果たせることも大切なポイントだ。同時にクラブ内でその地位を確立させるためにも、トレーニングなどではこの人物が大切な役割を担うことも前提となる。総監督からの信頼を受けて、選手に対しての決定権を持つ存在なのだ。

 

◆セカンドコーチに求められる4大要素

 

① 総監督からの絶対的信頼

 最優先事項として、監督補佐には何よりもまず監督の絶対的信頼が必要となる。ピッチの内外で、あらゆるテーマに関与して総監督の手助けをすることが必要とされる。また監督不在の状況でも練習や試合が成立するように、あらゆる選手、トレーニング、試合・・・その他のクラブ情報などにアクセスする権利を持つのも、セカンドコーチの大きな特長だ。

② クラブ、選手に対する責任能力

 総監督と同じく、セカンドコーチには多くの役割と責任が与えられる。そのため当然ではあるが、セカンドコーチはクラブに対して一定の責任を果たす必要がある。責任問題が発生するため、クラブもセカンドに対しては保障を与えることが普通となっている。アマチュアレベルでもセカンドコーチとクラブの間には契約が結ばれる。なおアマチュアクラブの選手、監督、クラブが結ぶ契約体系などについては、別のコラムで詳しく紹介したい。

③ トレーニングの管理能力、試合の管理能力

 セカンドコーチに欠かせない役割がトレーニングの管理能力だ。スペインにおいては普段の練習の30%から60%ほどを、セカンドコーチが担当する。そして戦術面の細かい修正やトレーニングを総監督が担当して、毎回の練習を締めくくるパターンが多い。セカンドには、総監督不在の場合などにもトレーニング全体を指揮する役割が与えられる。また試合においても総監督が出場停止処分などにより制裁された場合に、セカンドコーチには試合を指揮する役割が求められる。つまり監督の代役を務めることが要求されている。

④ 選手と監督間のコミュニケーション能力

 スペインのボールスポーツクラブでは、長いシーズンを戦い抜くため選手とコーチ陣の間に心理的プレッシャーが発生する。競技レベルでは特に、毎試合の結果に対する重要性が大きいため、この摩擦問題が特に顕著に見える。その中で、コーチ陣と選手団に亀裂が生じることは決して珍しくない。総監督と選手に起こりえる問題に対して、セカンドが巧みにアプローチすることも大切だ。約10ヶ月も続くシーズンをグループとして競争するには、優れたトレーニング管理能力以外にも、個性のある集団をまとめ上げる人間管理能力が求められるのだ。この人間管理に欠かせないのが”コミュニケーション能力”であり、コーチ陣を形成する全ての人間が直面する1つの課題である。

<従来のスペインの”監督補佐”とは?>

 

 20年ほど前のスペインでは、セカンドコーチまたは監督補佐とは、ビブスを配ったりゲーム練習の審判を務めるような役割が多かった。しかしボールスポーツのトレーニングレベルの向上により、現在の監督補佐には数多くの責任を果たすことが必須条件となっている。ボールスポーツトレーニングの細分化により、役割分担が進んだことがその主な理由であろう。

 先述にあるように、スペインのボールスポーツトレーニングでは、セカンドが戦術練習の前半を担当して、総監督にバトンタッチするパターンがほとんどだ。チームによっては練習を統率する役割を全てセカンドコーチが担う場合も多い。それでは、以下にセカンドコーチに求められる具体的な仕事内容を考察してみる。

<セカンドコーチに求められる具体的な仕事内容>

(1) ロッカールーム、ピッチ外における選手管理

 ロッカールームやピッチ外では、多くの選手間またはクラブ間での問題が発生する。また選手と総監督の間に生じるストレスなども頻繁に生じる。『総監督は決してロッカールーム(更衣室内部の出来事)に関与するべきではない』というのがスペインの多くの指導者の意見である。これはクラブ内における公私混同を避けるためである。総監督の目の行き届かないところでも、セカンドコーチが選手のコンディション、練習現場の状態などをしっかりと把握する必要がある。

(2) 選手と総監督のコミュニケーションの橋渡し役

 選手にとって総監督とのコミュニケーションを取ることは決して容易ではない。欧米には独裁的監督も少なくない。それでも選手達には反骨心がある。またプロフェッショナルレベルでは、賃金問題などの理由から”総監督と選手のコミュニケーションは避けるべき”というケースも多い。その様な状況下で、トレーニング現場で発生するコミュニケーション問題への介入がセカンドコーチには求められる。選手の意見などを、現場からの視点を含めて汲み取る存在となる。

(3) 選手個別のトレーニングや強化メニューの作成

 現代社会の限られたトレーニング時間において、最高のトレーニングパフォーマンスがエリートクラブには要求される。そしてグループトレーニングを行なう際に、全ての選手が同じメニューを行なうことは、もはや非効率な時代にあるとも言える。ボールスポーツにはそれぞれ競技により異なるポジションが存在しており、例えばGK(ゴールキーパー)やピボットなどによっては個別のトレーニングが必要ともなる。理想のセカンドコーチにはグループワークと平行して、異なる個別トレーニングを管理する役割も期待されている。

(4) 総監督と分担してグループトレーニングを管理

 例えばローテーションを用いてのサーキット練習や、控え組みを含めた大勢の選手をトレーニングさせる場合、総監督の右腕となって控え組みのグループトレーニングを管理するのもセカンドコーチの役割となる。例えばメインコートで紅白戦を行なう主力組みを総監督が担当する場合、セカンドはサブコートなどを用いて控え組みにグループワークを要求したりする。特にアマチュア競技レベルでは、練習時間も限られているため、時間を有効活用して全ての選手を活動させることがポイントだ。

(5) リハビリテーション、リカバリーの担当

 また負傷者やリカバリーに専念する選手に対するアプローチも、エリート競技では欠かせない。フィジカルコーチや専属の医療士がクラブにいない場合、セカンドコーチらが練習のメニューなどと平行して負傷者やリカバリーに専念する選手に対して別メニューを組むことが一般となっている。メディカルスタッフやリハビリの専門家と相談したうえで、この別メニューを作成することで確実な回復過程を実現させる。

(6) フィジカルコーチの代役を務める

 また多くのボールスポーツクラブの場合、セカンドコーチがピッチ内でのフィジカルメニューを実行させることも一般的となっている。この場合のフィジカルメニューとは、一般的にはインテグラルトレーニングにおけるフィジカルメニューや、練習の一部分として取り込むサーキットメニューのことである。ジムメニューや特別なフィジカルサーキットなどは、専属のフィジカルトレーナーに担当させることが最適だ。また打撲や疲労などから全体練習に参加できない選手に対して、補強運動などを要求することもセカンドが担当できる役割だ。

(7) ウオーミングアップ、クールダウンメニュー

 毎日の練習で、ボールを用いたアップやダウンメニューの大部分はセカンドコーチが担当する。そして総監督が最も大切な戦術練習を担当するのが一般の流れだ。そして戦術練習が終了すれば、クールダウンメニューやグループ別のメニューを再びセカンドコーチが率先して1回の練習サイクルが終了する。ここではセカンドコーチと総監督が分担して、毎日の練習を効率よく組み立てることがポイントだ。エリートレベルでの要求の激しい練習を考慮すれば、1人の指導者(総監督)では全ての練習を指揮するのは相当のストレスとなるだろう。

(8) トレーニング参加率、試合の出場時間の管理

 庶務(デレガード)を務めるスタッフがいないアマチュアクラブなどでは、セカンドコーチに各選手のトレーニングへの参加率、試合の出場時間の管理などが任されることもある。一般的には庶務が行なう仕事も、クラブによっては総監督、セカンドコーチで分担することも必要となる。トレーニングや試合において、総監督だけでは記録することが困難なデータを記録して、チーム形成に貢献することも可能だ。またゲームにおける対戦相手のセットプレー分析やその他の記録なども、アシスタントがいなければセカンドに求められる大切な役割だ。

 

 このようにセカンドには多様な責任と、多くの役割が課せられている。エリートレベルで競争するチームにとって、このような補佐官の存在は欠かせない。また長いシーズンでグループのバランスを保ち、ポジティブな雰囲気を創り出すことが何よりも大切だ。セカンドは総監督とのバランスを取り合いながら、チームのマネージメントに大きく関与する。総監督と二人三脚でチームを仕切る大切なポジションなのだ。

 スペインの監督によってはセカンドを相棒として、2人1組で行動しながらチームを渡り歩くペアも決して珍しくはない。またクラブによっては、次期の総監督のポジションを期待される人材を、セカンドに任命することが一般的である。成績不振や個人的な理由から、総監督が更迭された場合や辞任した場合、チームバランスを大きく崩すことは避けたい。そのためにも”セカンド”という補佐官には、普段から一定の責任と権限を与えておくことが、チームにとっても健全なトレーニング管理である。

馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。