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2013-10-15

EXCELENCIA(自己超越)についての考察

2013/10/15

◆EXCELENCIA『自己超越』についての考察

 スペイン人のエリートレベルにおけるスポーツ指導者はよく”EXCELENCIA(エクセレンシア)”つまりは『自己超越』の理論を口にする。トレーニングは激しく、短く、濃密に・・・心理的プレッシャーをかけて緊張感溢れる練習環境をスペインの指導者は好む傾向にある。スペインでは頻繁に、短時間でも100%以上の激しさでトレーニングに従事することが重要視されるが、これも今回の『自己超越の理論』に深く関っている。また様々な取材を通して、私はこの哲学がアマチュアレベルや育成年代にも深く根付いていることにも驚かされた。なお日本を含めたその他の国でも、一定の競技環境に行けば同じような哲学が存在するのではないだろうか?

◆スペイン人指導者が好む練習に対する姿勢

 


 スペイン語ではこのような概念をEXCELENCIA(エスセレンシア)と表現しており、これはラテン語の“EXCELLENTIA(卓越すること、超越すること)”に由来した表現である。このエクセレンシアの哲学を代表する競技には、アイススケートや新体操などが挙げられる。これらの競技は幼い頃から週に数十時間のトレーニングをこなし、ストイックに食事管理などを行ない、そして僅かなミスも命取りとなるという非常にストレスのかかる“自己超越の理論”にかなったものである。しかしボールスポーツを含む全ての競技、芸術、仕事などにもこの理論が適用できるであろう。

 一般的には1つの競技に10年、1万時間という時間数が、1つのテーマの習得にはには必要と論じられるが、学者によってその意見は様々である。それではここに、筆者なりのスポーツ科学における“EXCELENCIA”の日本語解釈を以下に書き出してみる。

◆”EXCELENCIA”の日本語解釈

 

 そしてこの自己超越の姿勢は、日々のトレーニングを100%の激しさと集中力をもって取り組む姿勢の代名詞でもある。スポーツ競技において、このようなストイックな姿勢は、個人やチームの成長過程における基盤となる。全力のトレーニングによって、選手間、チーム内に健全な競争習慣と自己犠牲の姿勢が生まれるからだ。そしてこの習慣と犠牲が、チームの底力に変換されるのだ。 またどんなスポーツ選手やチームでも、調子のいい日、調子の悪い日は存在する。しかし自己超越を繰りかえすことにより、チームが習得した競争習慣や自己犠牲の姿勢こそが、チームパフォーマンスの最低ラインを引き上げることになる。

 

 

 社会競争と同じように、スポーツの競争環境も非常に激しいものだ。目標に対する妥協が許されない現実、常に”EXCELENCIA”を追求し続ける必要性については疑う余地もないだろう。このような自己超越の理論は、育成年代の少年達に段階的に指導することができる。そしてエリートレベルになれば、トレーニングにおいて指導者が要求する最低限の強度が、同チームの試合における最低限のパフォーマンスを保障するバロメーターになるのだ。(以下の図を参照)

 


◆自己超越の限界について考えてみる

 このように日々100%の努力を選手やチームが行ない、究極の自己超越を突き詰めたと仮定しよう。自らが設定した目標に限りなく近づいているはずだ。しかし高いレベルの競争になれば、競争相手も同じように過酷なトレーニングを積んでいる現実が存在する。つまり自分が階段を上がっているとしても、ライバルも着実に足を進めているのだ。過酷な競争環境には強力なライバルが存在しており、ここで”自己超越の限界”に直面することになる。それでは自己超越の追求だけでは不十分という状況に置かれたら、スポーツ選手はどのようにして前進するのだろか?

<高い競技レベルになれば、自己超越のみではライバルには追いつくことができない。これを“自己超越の限界”と定義する>


◆”自己超越の限界”を破りライバルと戦うには?

 

 

① 心をこめて競技に従事する

 選手にとって頭で考えれば不可能なことでも、心が求めればモチベーションに刺激を与えることができる。考えてプレーしても、合理的な限界は打ち破ることができない。つまり合理的な考えによれば、自分より経験や筋力がある相手には立ち向かえないと頭脳が判断してしまう。しかし心と魂をこめて求めれば、パフォーマンスに大きな違いを生み出すことも可能である。感情や精神力の強さは大切な要素の1つだ。

② 自分にとっての、奥深いところに存在する本当の目標を考える

 スポーツ選手は『プロ選手になりたい』、『大会で優勝したい』、『賞金が欲しい』などといった表面的な目標ではなく、もっと奥深いところに存在する本当の目標が何かを考える必要がある。自分がどのようにして生まれ育ち、なぜそのクラブに在籍して、その競技をトレーニングしているのか・・などを深く考える。そしてその”目標”が本当に自分の本心の目標なのか?それとも他人の目標なのか?・・・といったテーマを熟考する。

③ 自分の限界を引き上げるように精神的に成長すること

 多くの場合、スポーツ選手の頭脳の中で、現段階における能力の”限界”が選手の成長を妨げている。その限界を超越するためにも、成長して新しい”限界”を創り出す努力をすることが必要となる。選手は積極的にリスクを負い、自分が到達したい目標を再考する。そして新しい限界に挑むためには、必ず新しい問題が発生するが、あらゆる問題とポジティブに向かう姿勢を保つことも大切である。

 限界を超えるためには、リスクを冒すことは避けられない。またリスクを背負うことは、問題に直面することを意味している。リスクや問題に対してアレルギー反応を示さずに、積極的に人生に向かい合う姿勢がスポーツ選手にも求められる。”悩み事のない人生など現実ではない”と選手やチームは理解しておく必要がある。

◆集団として機能するには、選手には何が必要?

 それでは選手個人の話題から、”スポーツチーム”に対象を移して考えてみよう。1つのスポーツチームが集団として機能して”自己超越の追求”を果たすためには、選手にはどのような要素が求められるだろう?チームが限界に挑戦するには、大前提としてチームが集団として成り立つことが不可欠である。その集団の結束に求められる具体的な要素を、以下に検証してみよう。

 

 

① 寛容であること

 チームが結束してある一定の”限界”を超えるには、選手がチームのために助け合う姿勢が求められる。自分の目標の追求などに加えて、自己犠牲の覚悟が必要だ。調子の悪いチームメートのために自己犠牲を惜しまないこと。

② 謙虚であること

 トップレベルを目指す選手には誰しも自尊心とエゴイズムが存在する。しかしチームとして目標を追求するためには、自分のエゴイズムを制御することが求められる。時にはチームメートに謙虚さを示し、ポジションやチャンスなどを譲ることも必要。トップレベルでも仲間を信頼することがポイントとなる。

③ 忠実であること

 チームに対して忠実であること。チームに問題が生じたり、なかなか結果が伴わなくとも選手1人1人がチームに対して忠実であり、そして忍耐力を持つことが大切。問題があるからとチームに協力できないのなら、チームに忠実な選手とは呼べない。そしてチームに忠実でない選手は、必要と逆境での結束力こそ大きなパワーをもたらしてくれる。

④ 情熱を抱いていること

 情熱がなければ何事も成しえることができない。そして情熱を持つべき第一人者は”指導者”である。情熱があればモチベーションが生まれる。そして選手や指導者の情熱は伝染していく。そのため指導者やテクニカルスタッフは、常に熱心に雰囲気を盛り上げることを心がけたい。反対にチームに対して無関心な態度などをとれば、そのようなネガティブな態度も必ず”病のように”感染して広まっていく。

 

 

 以上のように、エリートレベルでの競争環境には高いレベルのメンタリティーを持って臨むことが成功へのポイントとなる。長いスポーツ人生を歩むエリート選手、指導者、経営者・・・多忙な日々で忘れがちなメンタル面でのケアを、ふとした瞬間にでも参考にしていただきたい。

 最後に悩める選手や指導者のために、簡単な質問リストを作成してみた。成功を求める選手やチームが、もしも何かに伸び悩んだら自分達で問いただしていただきたい。


◆本当にモチベーションで溢れているのか?

 

参考文献『魂をこめてプレーに徹すること』(シェスコ・エスパル氏)

馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。