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2013-10-29

屋外スポーツフェスティバル

2013/10/29

 筆者が活動の拠点とするスペインでは、実に多くのスポーツを楽しむ人々の姿が至るところで見られる。ランニング、サイクリング、サッカー、アエロビジム、パデルテニス・・・様々なスポーツを楽しむ人の姿を毎日のように見かける。一年に数回行なわれるマラソン大会、自転車大会なども各地で催されており、スペイン人のスポーツに対する意識はなかなか高い。

 日本も中高生の部活や大学のサークル活動などを含め、スポーツに対して積極的な側面を持っていると筆者は考えている。また一般的にアジアの国々では、『日本はスポーツに対して積極的な国』との評判も高い。日本国内各地でも、市の体育協会が管理運営する施設などを利用して”スポ-ツの集い”などが企画されている。

 社会人や一般の人々を対象としたスポーツイベントに目を向けてみよう。例えば岩手県の中部に位置する盛岡市などでは、体育の日に合わせて各種スポーツ大会・体験教室のイベントに加えて施設無料開放などを行なっている。ボールスポーツ、武道、ヨガ、卓球、体操、水泳から筋力トレーニングまで、実に幅広い種目を無料で体験することができる素晴らしいイベントだ。

 体育の日を中心に東京都でも公共の体育館やスポーツセンターを利用して、似たようなイベントが催されている。さらに体育の日以外にも、障害者の方々のためのスポーツイベントなどが、NHK厚生文化事業団、東京都障害者スポーツ協会の主催によって開催されている。このような”万人のためのスポーツイベント”の発展は、私のようにスポーツの力を信じる人間にとっても嬉しい限りのことだ。

 それでは西欧のスペインでは、一体どのような”万人のためのスポーツイベント”が催されるのだろうか?今回のコラムでは、スペインのいくつかの都市で毎年開催される “屋外スポーツフェスティバル”を取材してみる。

◆屋外スポーツフェスティバル

 ”屋外スポーツフェスティバル”・・・その名前にあるように、スペインの街では市内の主要道路や広場などを利用して、屋外での一般公開スポーツイベントを開催している。これは家族などで、気軽に街を散歩しながらも、多くのスポーツと触れ合える場所を提供するためのイベントだ。このフェスティバルは街の中心部の道路などを封鎖して、大規模に40種目以上がスタンドと体験スペースなどを設けて開催される。私が活動の拠点としているスペイン北部のア・コルーニャという街でも、今年で25年目の”屋外スポーツフェスティバル”が開催された。そして他にもスペイン南部のサラゴサなど多くの場所で、このような公開スポーツイベントが毎年のように行なわれている。

 

 

 


 この”屋外スポーツフェスティバル”では、マラソン大会が開催される時と同じように、基本的には土日に主要道路を封鎖して行なわれる。また街の中心部にある広場なども、同イベントのために運用される。そしてスポーツイベントと平行して、飲食スタンドなども市内中心部に展開される。慣れ親しんだ街を散歩しながらも、気軽にスポーツの体験が楽しめるように考えられている。

 

   


◆スペースを活用したスポーツ種目の導入など

 取材を通して印象に残ったのが、その参加競技のバリエーションである。ボールスポーツ、武道、ダンスなどは日本の”スポーツの集い”でも多く見られる。しかしスペインの”屋外スポーツフェスティバル”では屋外にセッティングする”スペースの広さ”を活かし、多くの興味深いスポーツが参列している。以下にいくつかの例を見てみたい。

① スペースを活かしたスポーツ競技

 野球、ハンドボール、フットサル、ローラーホッケー、バスケット、フリスビー、ミニゴルフ、100メートル走、乗馬など・・・室内では同時に開催することが難しい競技も、この屋外イベントでは開催可能となる。移動式のゴール、組み立て式のセッティングなどを用いて、ピッチは道路にラインを引いて即席で作り、公園の緑などもゴルフなどに活用する。

② 海沿いでのマリーンスポーツなど

 今回の取材でも回ったコルーニャ市のような海沿いの街の場合は、ボートの競艇や、ウィンドサーフィンなども催すことができる。またビーチ沿いの飲食店なども、積極的にイベントに参入させようという主催者側の目的もある。

③ ゴーカート、モトクロスなどマシーンスポーツ

 モトクロス、カーティングなど道路があるからこそ体験やデモンストレーションが可能となる競技もある。また自転車、スケートボードなどの演技や競技なども、やはりゆったりとした屋外スペースや公道を利用した方が簡単に準備ができる。

 

 


◆イベントの概要と市のサポート

 2013年6月16日にコルーニャ市で行なわれた第25回”屋外スポーツフェスティバル”には、40にも及ぶスポーツ団体が参加しており、総種目数は43にも上った。イベントへの参加者は7000人を越え、数万人が多くのスポーツ体験を楽しんだ。なかなかの盛り上がりに街は活気付いた。今回の屋外スポーツイベントには8つの公共団体、そして5つの企業がスポンサーとして協力した。もちろん警察官、救急隊員、消防車、モニターなどもボランティアとして無償でこのイベントを見守る体制を確保してもいた。今回のイベントを前にコルーニャ市のスポーツ局長フランシスコ・モウレロ氏は以下のようなメッセージを市議会で残した。

 『スペイン北部では盛んにスポーツを楽しむ文化があります。スポーツシーズンの終わりとなる6月、夏の始まりであるこの季節に、この屋外イベントを多くの家族に楽しんでいただける1日になればと願っています。健康、自己超越、団結、差別の撤廃など・・・スポーツが社会にもたらすポジティブな効果は計り知れません。この街の全ての人々が、生涯スポーツに従事できることを願っています』

◆アンケート調査や抽選会など

 今回取材に向かったこのコルーニャ市の”屋外スポーツフェスティバル”では、参加者を対象としたアンケート調査も行なわれていた。年齢層、性別、趣味、職業などに応じて、どのような競技に興味を持ち参加する意欲があるかを調べるものだ。また多くのスポーツスタンドに寄って体験してもらうために、各参加者には抽選券が配布されていた。1つのスポーツを体験するたびに、1枚の抽選券を受け取り、自転車など豪華な賞品も用意されていた。またTシャツなども限定で配られており、人々に意欲的に参加してもらうための工夫が盛り込まれていた。

◆スポンサーなどについて

 スポンサーとなる百貨店や食品会社などは、ストリートに大きな看板などを搬入していた。今回のイベントではコカ・コーラ社なども参入しており、無料ドリンクコーナーや、簡単なイベントグッズの配布や販売などが行なわれていた。また地元の音楽グループなどを招待して、日曜日の街角は素晴らしい賑わいを見せた。

◆老若男女のためにあるイベント

 このイベントの最大の特徴とも言えるのが、世代を問わずに家族揃って参加できるようなイベントの構造だ。幼児が遊べる “遊園地スペース”も用意されていれば、お年寄りも楽しめるチェス、ペタンク、カードゲームのようなマインドスポーツも充実していた。他にもアーチェリーやダンスなど、女性でも気軽に参加できるようなイベントも盛り沢山なのが、この”屋外スポーツフェスティバル”の特徴と言えるだろう。

 

 


◆協会、団体アピールのためのイベント

 この屋外イベントには、各スポーツクラブにとって、一般の観衆に対する競技アピールの意味合いも強く含まれている。同イベントに参加するマイナースポーツは圧倒的に大多数である。そして多くの競技が、日常では体育館や限られた場所などで練習を行なっている。そのため普段は目にしない競技を公開する機会となる。やはり、このように街の中心部でイベントスタンドを開き、多くの人々に種目をアピールできるチャンスは貴重な機会なのである。

 さらに夏休みを控えるスポーツクラブにとって、新しい青少年とのコンタクトを広げ、両親などに競技の健全さや魅力をアピールするには、このようなイベントは絶好のものだ。もし参加者が競技に興味を抱けば、その場でクラブのモニターが丁寧に練習環境や、入会の仕方も説明してくれる。市のスポーツ局にとってはボランティアとしてスポーツクラブの力を借りる代わりに、スポーツクラブ側にとっては大きな情報発信や会員募集の場所にもなる。

◆特定種目アピールのための試合会場として

 またサラゴサ市で2011年9月に開催された”屋外スポーツフェスティバル”の場合などは、イベントに平行して『サラゴサ市パデルテニス決勝戦』が街の中心部のピラル広場で開催された。会場には、400人ほどの観衆が座って観戦できるような即席シートも準備され、サラゴサ市で人気急上昇のパデルを市やスポンサーなどが後押しする形となった。なおサラゴサ市はスペイン国内でも最大規模のパデル施設を備えている。このように都市によっては、特定のスポーツを振興するためにイベントの一角が、大々的に活用されたケースもある。

◆競技環境や交通機関の整備

 しばしば街の中心部にある大通り、公園、広場を分割してこの”屋外スポーツフェスティバル”は企画される。アスファルトの公道にラインなどを引いて、即席のフットサルピッチを作ったり、また柔道のマットなども道路の上に敷いて即席会場を作成する。またゴールなどは車両などを用いて搬送して、ピッチ作りには道路の線などを上手く利用したりもする。

 

 


 なおこのイベントが行なわれる日のために、地下鉄の存在しないコルーニャ市ではバスのルート変更が実施された。バスを通常のルートから迂回させて、イベントのエリアは完全に交通が封鎖された状態でフェスティバルが行なわれた。いずれにしても、スペイン北部ののどかな日曜日ということもあり、取材に向かった2012、2013年のイベントを見る限り、周囲の交通などには殆ど影響は感じられなかった。

 


◆取材を終えての感想

 今回の取材を通して感じたことは、このイベントは『スポーツの屋外パレード』という印象であった。異なるモチーフの踊りが多くの人々の目に入るパレードのように、この”屋外スポーツフェスティバル”を通して、多くのスポーツ種目を人々は体験できる。また屋外でスポーツイベントを開催することにより、市民が街の魅力やプライドを肌で感じる大切さも実感した。やはり屋外のイベントは開放感もあり、地元の生活にフィットした感覚が沸き起るのだろう。マイナスポーツや室内スポーツの活性化のためにも、何かアイデアを得ることができるのではないだろうか?

馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン1部の名門サンティアゴ・フットサルで活動中。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。