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2013-12-9

デジタル新世代とスポーツ環境について(後半)

2013/12/09

<参考講義”アルゼンチン・シグロ21大学”ロベルト・ロスレル氏>

<ロベルト・ロスレル氏の『デジタル新世代』という現象についての講義。この社会現象はスポーツ選手、指導者を取り巻く環境にも大きく関係している>

◆デジタル新世代の5大要素
 前回のコラムでも述べたように、デジタル新世代の少年達、彼らの思考回路はわれわれアナログ世代のそれとは大きく異なっている。この新世代をより理解して攻略するために、彼らの5大要素をまとめてみる。デジタル新世代を理解することで、アナログ育ちの指導者には何が求められているかを復習しよう。なお以下の5大要素は社会全体の傾向として存在する傾向であるが、スポーツ選手や指導者にも適用できる要素として取りあげてみる。

<ロベルト・ロスレル氏の『デジタル新世代』という現象についての講義。この社会現象はスポーツ選手、指導者を取り巻く環境にも大きく関係している>




① PC、携帯機器などへの依存症候群
② ソーシャル・ネットワークの頻繁利用
③ ユーチューブなどの動画サイトの頻繁利用
④ デジタルイメージに対する敏感性、好感
⑤ 口頭による意思疎通の希薄さ、嫌悪感

 前回のコラムからの繰り返しとなるが、この5大要素からも理解できるように、デジタル新世代が最も受け取りやすい情報はデジタル情報である。ソーシャル・ネットワーク、動画、デジタルイメージなどはこの新世代の思考回路にとって受け入れやすい媒体である。またデジタル新世代は、口頭によるコミュニケーションにはあまり免疫がなく、長時間の口頭によるコミュニケーションは残念ながら逆効果となってしまう。

<感情表現などもアナログ時代の表現から、アイコンや動画を用いてのデジタルイメージによる表現が増えている>


 それでは『④デジタルイメージに対する敏感性、受け入れやすさ』、そして『⑤口頭による意思疎通の希薄さ、受け入れにくさ』について以下のデータを紹介したい。
 医療機関の調査によれば、青少年が普通に生活する中で72時間以内に遭遇するイメージは、平均して2500枚のデジタルイメージと計算される。例えば各イメージを10秒ずつ凝視した場合、72時間が経過した後には90%のイメージまたはその内容を記憶できていることが検証されている。
 しかし口頭伝達による情報はどうだろうか。デジタル新世代が72時間生活する中で伝えられる情報では、僅かに約20%しか内容を明確に記憶できないという調査結果がでている。このようにデジタル新世代にとって、いかにデジタルイメージへの依存性が強く、また口頭による意思疎通のそれが弱いかが理解できる。
 現在スポーツ選手として活躍する若い選手や指導者が、すでにこのようなデジタル新世代症候群を抱いていると私は考えている。われわれアナログ世代の指導者や教育者は、このような事実に早急かつ適切に対応する必要性に迫られている。選手とのコミュニケーションにおいて、アナログ世代から受け継いだアプローチ方法に変化を加える必要性があるのではないだろうか?

<現代では、口頭の表現とパワーポイントなどによるデジタルイメージとの融合によって、視聴者にメッセージを届けることが主流となっている>


◆デジタル新世代の性格と傾向

 それではデジタル新世代がどのような性格と傾向を持っているか、いくつかの代表的な傾向を書き出してみる。アナログ世代とデジタル新世代では、どのような性格と特徴の違いが見られるだろうか?この性格と傾向こそが、彼らと向き合うためのヒントを見出すポイントとなる。
① ハイスピードによる情報処理
 デジタル新世代は高速インターネットにより、素早い情報処理に慣れている。そのためハイスピードの情報処理を好む傾向にある。あらゆるタスクに対して高速処理化が進んだ一方、長時間の情報をとり入れることに拒否反応を示す傾向が見られる。同時に情報伝達にも、長い時間を費やすことを嫌う傾向にある。

② マルチタスキングを好む傾向
 コンピューターを手足のように駆使するデジタル新世代にとって、複数の情報ウインドウを同時に開いておくことは当然のことだ。彼らの傾向として、複数のテーマを同時に処理する能力(マルチタスキング能力)がある。

③ 短い集中力と貪欲な選択性
 マルチタスキング能力を促進した代わりに、デジタル新世代は集中力を失い、また情報の選択に対して積極かつ貪欲になっている。コンピューターとネット環境の進歩により、より積極的に自分で情報を選択する傾向がある。このアクティブな姿勢とは裏腹に、多くの情報に対してとても希薄な集中力を見せる側面がある。

④ 感情的なインパクトによる優先記憶
 先述にあるように72時間の生活の中で、デジタル新世代の選手は実に2500枚ものデジタルイメージと遭遇する。実に多くのイメージと日々交差するのだが、彼らは感情的なインパクトにより優先的に物事を記憶する傾向にある。内容を重視したアナログ世代に比べると、イメージの感情的インパクトが占める重要性が大きいという調査結果である。

⑤ 外的情報に対しての受動的な姿勢
 これはテレビのサッピング文化にも類似しているが。自ら発信する情報よりも、外的情報を受信することがはるかに多いため、外的情報に対する受動的な姿勢がデジタル新世代には頻繁に観察することができる。

<ネット社会の発達により、素早く、どこからでも情報を得ることが可能となる。多くの情報を同時に扱うことも可能となり、マルチタスキング能力は以前よりも格段に向上している>


◆デジタル新世代とのコミュニケーション方法

『デジタルインターフェイスの活用によるアクセス。パワーポイント、動画、イメージなどの有効利用、配色の工夫、時間は短く、ポイントはシンプルに』

<昔の大学講義のように、長時間スライドなどを用いずに講義を続けることはもはや非効率的な時代となった。デジタルインターフェイスの活用は社会全体の必要性となっている>


◆デジタル新世代の集中力について

 デジタル新世代は、集中して長時間の情報を記憶にとどめることができない傾向にある。彼らに対して情報提供を行なう場合、まずは最初にインパクトのある情報を流し、中盤は手短に収め、そして最後に結論をシンプルに伝えることが理想である。* これを”逆サンドイッチ理論”とロベルト・ロスレル氏は表現している。
 ここで一度『CNN』、『BBC』などの国際ニュースを参考にしてみよう。あらゆるニュースの話題が5分以内にまとめられている。そして各テーマはウズベキスタンの政治問題から、カナダの文化祭り、タンザニアの動物特集、東京のニュースなど豊富なコンテンツが用意されている。大手の国際ニュースなどを見れば、1つ1つの話題を手短に、ダイナミックに提供していることが明らかである。このような国際ニュースは、視聴者の傾向や注意力のなさなどを十分に理解している。われわれスポーツ指導や育成に携わる人間も、同じように”視聴者”となるデジタル新世代の特長を理解してアクセスする必要があるだろう。

<マスメディアは時代に鋭い。主要な国際ニュースなどを見れば、新時代の傾向をしっかりと捉えたうえで視聴者にアクセスしていることが分かる>


 今回のコラムの要点ともなるが、選手指導に限らず、指導者や父兄に対するセミナー、スライドショー、講義などにも是非ともデジタル新世代へのアクセス方法を考察していただきたい。新世代の選手や指導者達に、限られた時間内にどのようにしてメッセージを伝えるかという問題に直面したら、このデジタル新世代の性質を参考にしていただきたい。

 最後にスライドやパワーポイントのような”デジタルインターフェイス”の活用のために、いくつかのヒントを書き出しておく。

◆デジタルインターフェイス作成のヒント

・受動的な情報をプロセスするのは15分が最長の集中力
・可能な限りポイントを突いた、インパクトのあるイメージ
・コントラストを有効活用してイメージのインパクトを高める
・パワーポイントなどの背景は白色を避ける、暗い色を使う
・紺色、水色、黄色が最適と言われる(赤、緑は特に男性に不好評)
・電気を消してイメージを長時間見せると視聴者は眠気に襲われる
・1つのスライドは8秒以内に読めるように工夫すること
・文字は丸みなどのないシンプルなテキストフォントを採用する
・タイトルなどはとても大きくする、ビッグマック広告
・普通の人間が1度に扱う情報は6個までと覚えておく
・視聴者の情報量や知識レベルを事前に調査しておく
・魚釣りと一緒で、視聴者が欲しがる情報を準備すること
・マーケット調査を行ない、自分のエゴイズムを抑制する


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン1部の名門サンティアゴ・フットサルで活動中。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。