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2013-12-24

間接的トレーニング(インビジブルトレーニング)『睡眠と休息の向上について』

2013/12/24

 グラナダ大学スポーツ科学学科の副主任を務め、サイクリング・トレーニングセンターの責任者も兼任する、ミケル・サバラ氏が『インビジブル・トレーニング』という題目で先日ある1枚のレポートを公表した。”インビジブル”=”目に見えない”という言葉が意味するように、一般的なトレーニング指数(スピ―ド、得点、心拍数など)からは測ることのできないトレーニング方法についての考察であった。日本語では自己管理能力、メンタルトレーニングなどがこのようなインビジブルトレーニングの一環として解釈されることも可能だろう。
 このような選手のコンディション調整方法は『間接的トレーニング』とも表現されており、筆者も常々研究している項目の1つでもある。サバラ氏はこのようなトレーニング方法を『目には見えないが、スポーツパフォーマンスにおいて非常に重要な影響力を持つトレーニング要素』と解釈して位置づけている。

◆直接的トレーニング
 従来のトレーニング概念
 典型的なトレーニング
 ジムやトレーニングなど

 


<直接的トレーニング: 競技に直接的に反映されるような技術・戦術的トレーニング。例:シュート練習、体力トレーニング、キーパー練習など>


◆間接的トレーニング
 軽視される傾向にある概念
 インビジブルトレーニング
 健康管理、アフターケアなど


<間接的トレーニング: 競技には直接的に反映されない、または顕著に影響を与えないために軽視されやすい要素。例:アフターケア、骨盤矯正、ビデオセッションなど>




 このようなインビジブルトレーニング(間接的トレーニング)は、直接的には見ることができないトレーニングが大部分である。そのため厳密には”トレーニング=練習”という広義には入らないと考えることも可能だ。例えばストレッチはトレーニングの一部か?疑問に思う指導者がその例だ。このようなトレーニングは肉体的な負荷を含まないことが多く、一般のスポーツ環境においては軽視される傾向にもある。今回のコラムではこの『インビジブルトレーニング=間接的トレーニング』、その代表要素として挙げられる『睡眠』について考察してみたい。

 従来の考えでは、トレーニング=練習とは一般的には練習場やコート内で実施されるものと定義されてきた。ボールを使った球技トレーニングやジムで行なう筋力トレーニングなどがその典型である。このような直接的トレーニングが競技パフォーマンスに最も大きな影響を与えることは当然のことだ。しかしそれ以外にも、間接的にスポーツパフォーマンスに大きな影響を与えるトレーニングが存在することを忘れてはならない。『休息もトレーニングの大切な一部分』と考える柔軟さがここで大切となる。またメンタルトレーニングといった形に見えない要素を理解する知識が必要だ。そのような抽象的なトレーニングの重要性について、私達スポーツ関係者は十分に理解を示しているだろうか?

 まずは競技レベルでのフィジカルトレーニングを例にとって考えてみよう。実際にジムや練習場で費やす①直接的トレーニングの時間と質、またはリカバリーや練習計画、ストレッチ、睡眠などに投資する②間接的トレーニングの時間と質・・・そのどちらがエリート選手にはより大切だろうか?当然ながら両方の要素とも大切極まりないのだが、近代のスポーツ科学の進歩により、このような『間接的トレーニング』の重要性がより理解されようとしている。またここで③完全に競技と自分を切り離す大切さ(オフ)にも注釈しておきたい。



① 直接的トレーニングの時間と質
② インビジブル(間接的)トレーニングの時間と質
③ 完全に競技から離れるオフの時間



 それでは間接的トレーニング(インビジブルトレーニング)とは、どのようなエレメントから構成されているのか?以下に簡単にではあるが、この間接的トレーニングの種類を大きなブロックごとに分類してみる。


◆間接的トレーニング(インビジブルトレーニング)の主なブロック

① 休息、睡眠の管理と向上
② 食事、栄養の管理と向上
③ ストレッチ、マッサージ、姿勢改善など
④ 整骨治療、サウナ、局地治療などによる物理療法
⑤ 適切な投薬やサプリメントによる健康改善
⑥ イメージトレーニングやビデオによる情報トレーニング
⑦ 定期的な体力チェックや健康診断など

 以上に代表されるように、トレーニング現場の外でも選手のコンディションを左右する間接的トレーニングの種類は実に豊富にある。今回のコラムでは、そのエレメントの中でも特に大切な、『休息+睡眠』に焦点をあててみる。睡眠の質が低いと、選手は明らかに疲労感を溜めていく。選手の個人パフォーマンスが低下すると、顕著にチーム全体に悪影響を与えてしまう。チームに悪影響を与えると、選手としての価値を下げることになる。このサイクルは明白であろう。



毎日のスポーツパフォーマンスだけではなく、生活リズムにも直接影響を与える『休息と睡眠』・・・選手1人1人がしっかりと規則正しい生活を保つことは、エリート選手としては絶対条件となる。生活リズム、運動パフォーマンス、精神的ストレス、体重の変動・・・その全てが睡眠による影響を顕著に受けている。そのため睡眠の管理と質の向上を目的とした『間接的トレーニング』の重要性はスポーツ選手にとっては計り知れない。なおアマチュアレベルのスポーツ環境にとっても、このような間接的トレーニングは軽視することができない管理事項だ。



◆ キーポイント: ①睡眠 ②食事 ③アフターケア ④メンタルケア

ここで以下に、選手の睡眠の質を高く保つためのヒントをいくつか整理してみよう。

① カフェインを含むような飲料、タバコ、アルコールは控えること。特に就寝直前は細心の注意を払う。カフェインやタバコは刺激物であり、選手の睡眠を妨げる大きな原因となる。

② メンタルストレス、フィジカルストレスが多いほど、選手が必要とする睡眠時間も比例して長くなる。そのため指導者は各選手の睡眠に必要な時間が年齢、体力、生活リズムなどによって変化することに注意する。

③ 食事管理、食事の時間帯に注意すること。睡眠の2-3時間前までに、必ず最後の食事(夕食)を済ませる習慣をつけること。スポーツ選手はバランスのとれた食事を心がけ、食事量を適度に保つことは当然だが、食事の消化プロセスが睡眠の質を下げる一つの原因となることも覚えておきたい。

④ 可能な限り、同じ時間帯に就寝、起床することが望ましい。健全な睡眠プロセスを保ちパフォーマンスを最大限に発揮したい場合は、毎日の生活サイクルを整えることが大切だ。特に消灯、起床、食事、練習の時間帯は規則正しくサイクル化できれば理想である。

⑤ 睡眠環境(ベッド、寝室、枕など)の調整を行なうこと。例えばベッドは固すぎず、柔らかすぎず、寝室は常に最大限に快適であるように工夫すること。枕によって睡眠の質が大きく変化することも、忘れてはならない。

⑥ 睡眠環境の湿度、温度を調整すること。室温は18-22度ぐらいが理想であり、湿度は40-70度までにキープすること。寝室には蛍光灯など刺激のあるライトを使わず、騒音を遮断して深い睡眠を助長すること。
⑦ 寝室ではベッドに入った後、早い時間帯に眠りに入る習慣をつけること。寝室に入り、すぐに睡眠につく習慣をつけることにより、体力を早急に回復することが可能となる。また不眠症などを防ぐためにも、『寝室=寝るための場所』という生活習慣をつけておきたい。

⑧ 睡眠の直前には激しい運動や精神的ストレスを避けること。例えば消灯前にはリラックスした音楽を聴き、落ち着いた内容の書物を読むこと。アクション映画、色彩の強いアニメーション、頭脳を刺激するビデオゲームなどは就寝前には極力避ける。

 私達は人生の3分の1を睡眠に費やしている。15年生活すると、5年の時間を睡眠に費やしたと計算することもできる。そのような膨大な時間を費やす『睡眠』だけに、やはりそこには最高の質を追求するべきだ。間接的トレーニングの代表とされる『睡眠』だが、トレーニングからの回復をいち早く可能として、毎日の生活習慣を向上させるためのキーポイントでもある。繰り返しになるが、『休息、睡眠、食事の管理と向上はトレーニングの一部』ということを、私達は日頃から覚えておきたい。


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン1部の名門サンティアゴ・フットサルで活動中。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。