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2014-2-17

数的局面における技術・戦術概念に対する理解について

2014/02/17

まえがき「インテリジェントな選手について」

 先日ドイツ、スペインのバスケットボールの指導者と”優秀な選手とは何か”という話題について話し合う機会があった。そこで個人戦術について、詳しく討論が行なわれた。ここで①情報知覚、②決断基準、③個人技術、④戦術分析といった能力が、インテリジェントな選手の土台となる『個人戦術』を形成していることが焦点として挙げられた。*コラム32号『どのようにしてインテリジェントな選手を育成するか?』を参照していただきたい。


「個人戦術とは選手が、対戦相手、試合状況、個人局面、チームの状態などを分析して、合理的に個人技術を実行する能力である」



 ここ数年、ハンドボール、ホッケー、バスケット、ラグビー、フットサルなどのボールスポーツにおける選手条件として『オープンスポーツに対応できるインテリジェントな選手』というコンセプトがよく論じられる。集団ボールスポーツのための、状況判断などが重視される。しかし個人戦術能力を伴わなければ、選手はインテリジェントな選手として機能を果すことができない。



<コラム32号『どのようにしてインテリジェントな選手を育成するか?』より>

オープンスポーツとインテリジェントな選手について

 一般的にボールスポーツとは、チームメートとライバルの関係が複雑に連動しながら、2度と同じ状況が繰りかえされない予測不可能な要素を多く含むことを特徴としている。このようなオープンスポーツにおいて、不安要素は連続して発生する。そのため絶え間なく変わり続ける状況の中で、より多くの情報を取り入れて、質の高い決断を下す能力が選手には要求される。概してこのように多くの情報を取り入れて、優れた決断を下すことができる選手を”インテリジェント”な選手と定義づけている。

<インテリジェントな選手育成に関するヒント>




① 選手の問題解決能力を、トレーニングに周辺知覚能力や戦術的刺激などを導入することにより向上させる。このようなトレーニングを導入して、予測不可能の事態に対して選手はよりスムーズに対応する力をつける。ある特定の戦術パターンの枠を越えて、最短の時間内で最良の解決オプションを探す能力を養う。戦術の枠に囚われずに、状況判断によって局面解決を可能とする。

「しかし1つのボールを媒体とする競技である以上、個人戦術、集団戦術はボール周辺の少人数が関与する状況下で発生する傾向にある。その少人数が関与する状況には特定の数的パターンが存在する」


 

オープンスポーツに存在する技術・戦術局面パターン

 ボールスポーツでは2度と同じ状況は繰りかえされない。それが私達が向き合うオープンスポーツの本質だ。しかし集団ボールスポーツの特性を研究すれば、異なる状況の中にも類似した戦術局面のパターンが繰りかえされることも事実である。1つのボールを媒体としている以上、個人戦術、集団戦術はボール周辺の少人数が関与する状況下で発生する傾向にある。その代表例として、1対1、2対1、2対2、3対2、3対3、4対3、4対4・・・という数的局面が存在する。全ての状況が異なるにしても、やはり数的パターンによって問題系統を整理することが可能ではないだろうか?

 「オープンスポーツとはいえ、観点によっては1対1、2対1、2対2・・・などを断続的に繰りかえすことにエッセンスがある。ゲームシステムよりも、このような少人数による戦術パターンの重要性は計り知れない」

 インテリジェントな選手を育成しようとする指導者、選手達はこのような試合中に繰りかえされる数的局面戦術を、競争環境に応じながらも徹底する義務があるだろう。このような数的局面においての共通理解は、チームをより高いレベルでの問題解決へと導くことになる。

 「オープンスポーツという無限の可能性の中にも、数的局面などのように分類可能な問題系統が存在する。臨機応変に対応するインテリジェンスの中にも、いくつかの公式パターンが存在する」


<ゲームで頻繁に発生する数的局面について>




② 各自の競争環境に応じた数的局面を研究して、戦術的解決方法の例を選手にインプットする。試合中に似たような状況が発生した場合に、トレーニングで習得した自動回答によって選手は無意識に戦術準備を実行する。そして選手はより多くの情報刺激を探して、よりインテリジェントな回答を探すことに成功する。そのため戦術的に規律のとれたチームを形成することは、インテリジェントな選手を育てること以前に重要とも考えられる。

 




 今回のコラム『数的局面における技術・戦術概念についての考察①』では、このようなボールスポーツにおける数的局面戦術を、簡単にではあるものの考察してみたい。ボール周辺に発生する1対1、2対1、2対2、3対2、3対3、4対3、4対4・・・このような数的局面を解釈するために、私なりの戦術リストを以下に作成してみた。読者の皆様にはここからヒントを得ていただき、各自の競争環境、育成環境、クラブ理念などに基づいて独自のコンセプトリストを作り出していいただければと願っている。

◆局面 攻撃における技術・戦術概念 守備における技術・戦術概念
◆1対1 ボールドリブル能力
シュートの個人技術
広い周辺視野の確保
フェイントやトリックプレー
相手DFを見分ける能力
アイコンタクト能力
素早い決断能力
ディレイング(遅延)
守備における身体姿勢
守備フェイント
味方選手のサポート
味方選手とのコミュニケーション
全身(腕など)を利用した守備
アイコンタクト能力
GKとのコミュニケーション
◆2対1 上記の全て

パスの技術
ボールを敵から守る能力
オフボールの動き
味方へのサポートの動き
スペースなどへの突破の動き
ブロックなどの動き
シュート局面での判断力

*その他の2人組の戦術動作
(フェイント、ワンツーなど豊富な戦術)

上記の全て

パスを急がせる守備動作
パスラインカット
ボールをセンタから遠ざける動作
警戒動作
カバーリング
GKによるカバーリング

◆2対2 上記の全て

突破、サポートへの動き
フリースペースの掌握
アイソレーション
セカンドポストへの動き

上記の全て

カバーリング
サポートの動き
撤退動作
守備バランス
守備の組織
味方とのポジション関係
警戒アクション
パスのインターセプト
マンツーマン・ディフェンス

◆3対2 上記の全て

セカンドポストへの侵入
セカンドポストへのシュート
数的優位のアクション

上記の全て

数的不利の守備コンセプト
GKによる3人目の動き
GKによる警戒動作

◆3対3 上記の全て

パス、突破、サポートなどの連続性を持ったアクション
フリースペースの創出
フリースペースの占領
フリースペースの活用

*攻撃戦術の連続適用
(オーバーラップ、クロス、パラレラ、ポストプレーなど・・・)

上記の全て

マークの交換DF
プレッシング
守備ラインの形成
複雑な周辺知覚・決断・実行

◆4対3 上記の全て

ピボットを用いた攻撃戦術
ダミーピボット攻撃戦術
連続性のあるセットプレー
ピッチを広く使う定置攻撃

上記の全て

ゾーン守備
GKによるスペース掌握
組織だったカウンター攻撃
スペースの掌握

◆4対4 上記の全て

複雑な試合状況の再現
インテリジェンスの要求
(周辺知覚、決断能力、実行能力の全てが問われる)

上記の全て

異なる種類のディフェンス
様々なカウンターの使い分け

◆5対5 上記の全て 上記の全て

馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン1部の名門サンティアゴ・フットサルで活動中。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。