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2014-3-31

『試合前のメンタル調整、メンタルトレーニングについて』

2014/03/31

 厳しい練習環境を耐え抜いて、高度な試合を繰りかえす競技レベルのスポーツ選手達。そのような選手は、常々試合前にどのような状態でゲームやトレーニングを迎えるのだろうか。試合に大きな影響を及ぼすメンタルコンディションは、スポーツに関与する多くの人にとって未知の領域の話題かもしれない。今回のコラムでは、選手のメンタル調整、そしてメンタルトレーニングについて考察してみたい。

 まず選手のメンタルコンディションの根底にあるものは何だろうか?メンタルの状態を激しく変動させる要素、それが『モチベーション』である。このモチベーションの重要性に関しては、他回のコラムなどでも繰りかえし強調している。まずはモチベーションを主軸とした、メンタルコンディションの状態を整理してみよう。選手にはどのようなメンタルコンディションが存在するのか、大きく3つの状態に分類してみる。

<メンタルコンディションの3種類>

 

(A)モチベーション不足の状態 (集中力が上がらない)

 モチベーションが不足すると、試合だけでなくトレーニングにも深刻な影響を与えてしまう。スポーツ選手にとって最も危険な状態が、蔓延的なモチベーションの低下と定義することができる。逆にモチベーションが高ければ、どのようなことも実現可能になると提唱する指導者は数多い。

(B)最適な心理状態 (程よく興奮している)

  何事においても、最適な心理状態で物事(競技)と向き合うことが理想だ。選手の最適な心理状態についてだが、①選手がベストのパフォーマンスを発揮するのは程よいメンタル状態の時、②各競技環境などでこの適正ポイントは変動する、③選手ごとにそれぞれ最適な心理状態が異なる、という3つのポイントに留意しておきたい。

(C)過剰なモチベーション (ガチガチになっている)

 選手のモチベーションが高すぎると、多くのネガティブな結果が予想される。例えば、①上手く本来のパフォーマンスを引き出せない、②プレーにおいて注意力、集中力に制御がきかなくなる、③筋肉が硬直してパフォーマンスにマイナスな影響を与える・・・など様々なネガティブな問題が生じる。

 

 

 まず指導者は日常から選手のモチベーションを重視しながら、トレーニングや選手管理を行なうことが大前提となる。そして各選手とその競争環境に応じて、選手の心理状態に対して適切なアプローチを行なう必要がある。同時に、選手自身が心理状態の調整を習得することも忘れてはならない。

 

 先述にあるように選手のメンタル状態、その中核となるモチベーションとは選手だけに依存する問題ではない。しかしメンタル状態を最終的にコントロールできるのは、やはり選手本人でしかないことも事実である。他人がどれだけ手助けをしようが、邪魔をしようが、選手本人にしか根底にあるモチベーションを調節することはできない。それでは以下に、選手がメンタル調整とメンタルトレーニングにおいて日頃から注意しておきたい事柄を挙げてみる。

<メンタルコンディショニングのキーポイント>

 

① 選手は自身の体力、技術などの限界を把握する

 選手には自分の体力や技術の限界を知っておく必要がある。メンタルトレーニングを実践する中で、自分の限界をあまりにも超越したパフォーマンスをイメージすることは逆効果となるからだ。また最低限のパフォーマンスを把握しておくことで、メンタル面でのマイナス方向への変化を抑えることが可能となる。

② 選手は体調を可能な限り万全に整える

 選手はまずは自身の体力調整を最大限に行なうことを優先する。競技レベルを戦う選手にとって、メンタルと同様に大切なのがフィジカル要素だ。コンディションが良好ならば、自然とメンタルもポジティブに機能する傾向にある。またどれだけメンタルコンディションが良好でも、フィジカルコンディションが悪ければ試合での調子は上がらない。

③ 自分のモチベーションについて考察する(調子が悪い時は特に)

 もし自分のプレーの調子が悪いと判断した場合、選手には自身のモチベーションについてしっかりと考察することが求められる。なぜ自分はその競技に従事して、どのような心境でその試合に臨んでいるのか、また本来のあるべき態度はどうなのか・・・調子が悪い時こそ、自身の根底にある”モチベーション”についてしっかりと分析する必要がある。

④ メンタル状態とパフォーマンスの関係性を理解する(兆候)

 選手は日頃のトレーニングや試合などから、調子のいい日はどのようなメンタルで試合に臨む傾向にあるかを自覚する習慣をつけることが望ましい。メンタルとパフォーマンスの間に存在する傾向とその『兆候』を経験の上で習得することができる。同時にパフォーマンスが下向きの日には、試合前にどのような行動をとったか、どのような心構えで試合に向かったか・・・経験から統計として把握、理解する。このような経験に基づいた訓示から、選手はどのようなメンタルで試合に臨むべきかを習得することができる。

 

<試合前のメンタルトレーニングに関するヒント>

(1) 選手は試合前に、自分にとっての最適なメンタルウオームアップ習慣として繰りかえすようにする。このメンタルウオームアップだが、15―25分ぐらいの時間で行なうことが理想とされている。

(2) もし試合前にゆっくりメンタルウオームアップを行なう時間がなければ、約5分ぐらいの短いメンタルウオームアップを準備しておく。選手は自分だけの、精神高揚の方法を心得ておくと心強い。

(3) 選手は試合前、自身の精神状態を問いただすことができる。例えば『自分は必要以上にモチベーションで溢れているか?』、『それとも闘争心が足りないのか?』、『普段よりも緊張しているか?』といった内容を自問自答することができる。

<試合前のモチベーションが過剰に高いならば>

 大切な試合を前に、過剰に緊張する傾向がある選手も少なくない。 もし試合前に普段よりも緊張しているようならば、選手はまずどのような解決方法を試すことができるだろうか?

① 独自のリラックス方法を実践する
② 試合の重要性などを客観的に分析する

<モチベーションが足りないと感じる場合>

 もしもモチベーションが湧き上がってこないような状態ならば、以下のような解決方法を試みる。

① 自分が好むような、素晴らしいパフォーマンスを頭の中で想像する
② なぜモチベーションに欠けているのかを冷静に分析する
③ 試合の重要性や意味などをポジティブに考えてみる
④ 試合に対するモチベーションを引き上げる努力をする

 そして以上のような解決を試みるには、様々な『メンタルスキル』を習得する必要がある。メンタルスキルと称される技術にはリラックス、集中、イマジネーション、映像、瞑想・・・など多くの種類が存在する。選手には普段からこのようなスキルを磨いておくことが求められる。また様々なメンタルスキルだが、日常からその効果を試していない状態では、ビッグマッチなどでそのようなメンタルスキルを試すことは逆効果と考えられている。

 


<メンタルスキルを実践するにあたっての注意事項>

*十分に練習したメンタルスキル以外は大切な試合などでは試みない
*確実に効果が期待できるメンタルスキルを経験から探し出すこと
*選手によってメンタルスキルの効果は一様ではないこと
*試合のレベルによりメンタルスキルの効果に差がある


<モチベーション向上のためのヒント>

 


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン1部の名門サンティアゴ・フットサルで活動中。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。