ヨーロッパニュース一覧

2009-5-13

ヨーロッパ・ニュース Vol.84

2009/05/13

IOC評価委員、マドリード訪問日程終える

 国際オリンピック委員会(IOC)評価委員会は5日から8日までの4日間にわたり、候補4都市の最後の訪問地となるマドリードの公式視察を行った。
 視察の間、国王をはじめとする王室関係者が行事に積極的に参加。国としての受け入れの意思とサポートをアピール。また、サパテロ首相をはじめ、政府、州、市のトップ、スポーツ選手ら多くの人々が評価委員を迎え、85%という高い世論の支持と70%以上のスポーツ施設がすでに完成しているというインフラ面では評価委員会から高い評価を得た。

 視察日程を終えたナワル・エル・ムータワキル委員長は8日に記者会見を行い、マドリード視察の総括を行った。ムータワキル氏の主要なコメントは次のとおり。
 「私たちは、マドリードから出された開催計画書を慎重に検証し、これに基づいて各種施設を視察しましたが、町として提供できるものを見させていただき、強い印象を受けました。また、現時点ですでに大部分のスポーツ施設が完成、また建設中であるというのは大きな付加価値になると思います。マドリードのような美しい町に滞在できたことを嬉しく思います。多くのポジティブな要素の中で、あらゆるレベルの政治家が開催を支持していると感じることが出来ました。IOCでは大陸持ち回り開催の原則はありませんし、今の今までこうした議論がなされたこともありません。開催地として純粋にふさわしい場所が選ばれることになります」



IOC評価委員会のマドリード視察スケジュール


4日
マドリードのバラハス国際空港の最新のターミナル4に到着した一行は、このために用意されたエコバスで市内の5つ星ホテル、ビジャマグナに移動。夕方にはスペイン皇太子夫妻をはじめ、関係者などが出席してのウエルカムパーティが行われた。

5日
公式視察開始。午前中には首相をはじめ関係者が参加しての歓迎の挨拶、スピーチが行われた。オープニングイベントには、サパテロ首相(政府代表)、アギーレ・マドリード州知事、ガジャルドン・マドリード市長、ピラール王女(皇室代表)、サラマンチIOC名誉会長、ブランコ・スペインオリンピック委員会(COE)会長、リザベツキ・スポーツプロジェクト担当局長、コーエン・マドリード2016招致委員長、IOCメンバーのサラマンチ・ジュニア氏らオリンピック招致の主要メンバーが出席。各担当者から、施設、公共交通機関などについてのプレゼンが行われた後、一行は選手村建設予定地および公共交通機関を視察した。
 
施設、公共交通機関に関するプレゼンの概要は以下のとおり。

<選手村>
 
マドリードのオリンピック村は、オリンピックメイン会場から500mの場所に建設され、すべての競技施設は半径20km以内に位置する。選手村の総敷地面積は46ヘクタールで、内部は選手宿泊施設、公園、公共スペース、オペレーションセンターという異なるエリアからなる。宿泊施設には70から140㎡の広さを持つ2600室が建設される。選手7170名が宿泊可能なほか、運営ボランティア、セキュリティ関係者の宿泊施設も併設される。
 このオリンピック村は、過去のオリンピックで選手村の設計を手がけたデザイナーおよびスポーツ選手のアイディアを取り入れて設計され、南欧の地中海風様式が取り入れられたデザインになる予定だ。選手村のコンセプトは“コンパクトで密接な居住空間の提供”で、エリア内には自転車道、歩道が完備され、電気自動車や最新の通信環境を含む近代的な設備を備えた公共スペースなどが作られる。5億6000万ドルを投じて建設される選手村の宿泊施設は、オリンピック後は公営住宅として利用される予定だが、うち15%はスポーツ選手に提供される予定だ。また、オペレーションセンターは、大会後は学校施設として再利用される。

<公共交通機関整備>
 ガジャルドン・マドリード市長は、2016年オリンピック開催時は、公共交通は全て統一システムで管理され、競技会場への移動は公共交通機関のみで行うプランを発表している。また、期間中はスムースで安全な交通機関をサポートするため、1200人の公団スタッフ、3000人の警官、1000人の交通機動隊が常時配置される予定。またエコ対策として、オリンピック開催時までに全ての市バスをエコ仕様(水素燃料、ガス、電気)にする他、自転車、徒歩などでの移動通路を整備し、CO2排出を大幅削減する計画も発表されている。また、マドリードはこれに先駆け、2011年には市民向けの公共自転車共有システムを開始することも決まっている。(バルセロナではすでに導入済)さらに、選手村からメインスタジアムまでの移動は5分以内、パビリオンまでは10分、各競技場までは20分以内に到着するとのシュミレーションも披露された。選手村のすぐ近くには、新たな地下鉄の駅が作られる予定で、選手の市内への移動もスムースに行われることになる。

<宿泊施設の充実>
 商業地、ビジネス、観光地でもあるマドリードには世界有数のホテルの数を誇り、多くの客室数を備えているが、全ての宿泊施設のうち78%が過去10年に新設または改修されており、近代化されている。2000年以降、マドリードでは90のホテルが新設されたが、うち70%にあたる63ホテルが4つ星もしくは5つ星のハイグレードホテルだ。これによって、新たに約10000の客室が増室されたことになる。1992年のバルセロナオリンピックの年には170万人の観光客が訪れたが、その後2007年には560万人に膨らむなど、オリンピック効果による観光客の増加が見込まれている。北京を含む過去5回のオリンピックから基に割り出したデータでは、マドリードでのオリンピック開催により150〜200万人の観光客増加が見込まれるが、これにより、ホテル稼働率はここ数年アベレージ66%から75%に上がるものと見られている。2016年には、IOCが要求する選手村の8000室の他、一般の宿泊施設の合計として42900室が稼動する予定だ。2008年にスペインを訪れた観光客の数は8300万人と世界第2位の観光国であるが、うち730万人がマドリードを訪れている。特に2000年以降マドリードを訪れる観光客の数は200万人増となっており、同国の主要観光地としての評価が高まっている。

6日
競技施設訪問
訪問地、スケジュールは以下のとおり。

8:40 ペイネタ・スタジアム(オリンピック・メインスタジア会場)訪問。サッカーのアトレティコ・マドリーの主力選手らが一行を出迎える。
10:05 8000人の収容数を誇るパビリオン(IFEMA=現国際見本市会場)を訪問。北京オリンピックのフェンシングで銅メダルを獲得したホセ・ルイス・バホ選手が一行を表敬訪問。
12:41 来週より始まるテニスの国際大会マドリードマスターズ1000の会場(カハ・マヒア)訪問。デビスカップ優勝メンバーのプロテニス選手フェンルナンド・ベラスコが一行を出迎える。
14:20 バスケットの会場となるテレフォニカ・アレナを訪問。
14:50 馬術競技の会場クルブ・デ・カンポを訪問。馬術のデモンストレーションが行われた。
16:00 柔道、テコンドーの会場となるパラシオ・デ・ロス・デポルテスを訪問。当日、この会場では小学生の柔道とテコンドーの大会が行われており、96年のアトランタ五輪で銀メダルを獲得した柔道家のエルネスト・ペレス氏がメダルの授与を行った。
17:00 最終地であるレアル・マドリードのホームスタジアム、サンティアゴ・ベルナベウを訪問。

 スタジアムの前では、地元の自転車チームが特設のゴールを駆け抜けるパフォーマンスを披露。一行はスタジアムのピッチ内でレアル・マドリードのユニフォームをプレゼントされ(メンバーの名前とともに2016を表す16番の番号入り)全員で記念写真を撮影した。また、一行を出迎えたレアル・マドリーのビセンテ・ボルーダ会長からムータワキル委員長にレアル・マドリーの全選手のサイン入りボールも贈られ、世界的クラブを訪問したメンバーは満足げな表情でこの日の日程を終えた。
 
移動の途中、IOCメンバーの元競泳選手アレクサンドロ・ポポフ氏が突然バスを止めて、ホッケーフィールドでマドリード・オリンピック招致委員長のメルセデス・コーエン委員長(92年バルセロナ五輪の女子ホッケー代表選手)とホッケーのゲームをはじめるハプニング。終始なごやかな雰囲気の中で視察が行われ、コーエン委員長は評価委員の反応に手ごたえを感じたようだ。


7日

 この日は、先に提出された開催計画書に基づく財政面、法制面、プロモーションなどについての質疑応答が行われたほか、パラリンピック開催に関するプレゼンが行われた。
 パラリンピックでは、オリンピックで使用された全ての施設、人材がそのまま活用される他、マドリード市による世界初の試みとなる“パラリンピック・ハイパフォーマンス・センター”設立構想も紹介された。また、マドリード・オリンピックが掲げるコンパクトでアクセスの利便性な大会は、パラリンピックに参加する選手にとっても大きなアドバンテージであることを強調。パラリンピックに特化した予算枠を設けるなど財政面での支援も保証した。スペインでは、過去11年に障害を持つスポーツ選手の国際大会が65回行われたが、うち11%がマドリードで行われており、運営面での経験も強調した。

8日

 最終日となったこの日は、衛生面、テクノロジー面、セキュリティ面でのプレゼンが行われた。スペイン内務省のルバルカバ大臣は治安についてスピーチを行い、マドリード開催の弊害になる可能性がある自治独立を求めるETA(バスク祖国と自由)によるテロの脅威について、「ETAの勢力は年々弱まっている。国は全精力を挙げてETA撲滅を進めており、オリンピックが行われる2016年は全く心配はいらない」と治安面での安全性を強く訴えた。
 その後、評価委員会のメンバーは国王夫妻主催の昼食会に招待された。こうして全ての公式日程を終えた評価委員のムータキワル委員長は、IOCメンバーのジルベルト・フェッリ氏とともに総括の記者会見にのぞみ今回の視察を高く評価、翌日マドリードを後にした。