ヨーロッパ・ニュース Vol.199
2013/02/05
● ラグビー: シックスネーションズ、イタリアが初戦でフランスから大金星
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ラグビーのシックスネーションズ(6か国対抗戦)が2日に開幕したが、いきなり初戦で、優勝候補のフランスが万年最下位のイタリアに18-23で敗れるという番狂わせがあった。
アズーリ(イタリアチームの愛称)にとって、同大会でル・ブルー(フランスチームの愛称)から勝利を奪ったのは2003年以来2度目のことだが、今回はホーム(ローマ)での開幕戦、しかも今大会の優勝候補筆頭とあって、その喜びもひとしおだ。
一方、格下のイタリア相手に黒星を喫したフランスは、グランドスラムの夢が早々と消え、次戦のウェールズ戦への影響が懸念される。また、もうひとつの優勝候補イングランドは38-18でスコットランドに快勝し白星スタートとなったが、昨年、グランドスラムを達成して同大会を制覇したウェールズは22-30でアイルランドに敗れている。
<イングランド、フランス、ウェールズが優勝候補>
大会前の下馬評では、イングランド、フランスが本命。次いで、昨年の王者ウェールズが対抗馬とされていたが、このうち開幕戦で勝利を挙げたのはイングランドのみという波乱の幕開けとなった。
昨年から大幅なチームの入れ替えを行ったイングランドは、昨秋のテストマッチで、アルゼンチン、オーストラリアに勝利し、順調な仕上がりを見せた。一方のフランスは、2011年の世界ラグビーで準優勝した時のメンバーを中心にチーム作りを進め、昨年12月のテストマッチでは世界王者のニュージーランドを38-21で破るなど、3年ぶりの優勝に照準をあわせてきた。初戦でいきなりイタリアに足元をすくわれ、戦術変更を余儀なくされるとはいえ、フランスが強力なチームであることには変わりない。次戦のウェールズ戦の結果次第では息を吹き返すだろう。いずれにしても、1試合を終えた段階で判断するのは尚早だ。イングランドとフランスの直接対決は2月22日にトゥイッケナムスタジアムで行われる。
<シックスネーションズ第1節結果>
2/2 ウェールズ 22-30 アイルランド (カーディフ)
2/2 イングランド 38-18 スコットランド (トゥイッケナム)
2/3 イタリア 23-18 フランス(ローマ)
=特別コラム=
<スペイン・シンクロチーム監督解任スキャンダルに見る日本女子柔道問題との類似点と相違点>
女子柔道代表選手15名が書面で、監督、コーチの暴力、パワハラをJOCに訴えた事件が表ざたとなり、この結果、監督が引責辞任することになったニュースが日本ではさかんに報じられているが、この事件の発端と経緯は、昨年9月にスペインのシンクロナイズ・スイミング界で起こった監督解任事件と酷似している。
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近年、スペインのシンクロは、デュオ、団体ともに常に世界大会で優勝争いを演じる常連で、国際大会で確実にメダル獲得が計算できる競技としてスペイン国民の人気も高い。事実、昨年のロンドンオリンピックでも、スペインはデュオで銀メダル、団体で銅メダルを獲得し、今では、かつて常に世界トップ3に君臨していた日本をも追い抜いて、大きく水をあけている。
だが、このオリンピックでの成功のほとぼりも冷めぬ昨年の9月、スペイン水泳連盟は突然、シンクロチームを15年間にわたり指揮し、その間、国際大会で55個ものメダルを獲得したスペイン・シンクロ界最大の功労者とも言えるアナ・タレス監督(45)の解任を発表したのだ。同連盟の会長は当初、タレス監督解任の理由を「強化方針上の理由」と発表していたのだが、その後、シンクロ代表選手、元代表選手15名が連名で水泳連盟宛にタレス監督の暴言およびパワハラを告発する手紙を送っていたことが発覚。スペインスポーツ界の名将は一転、スキャンダルの渦中に巻き込まれることとなった。
この手紙には、タレス監督が選手に対し日常的に行っていたとされる数々の暴言やパワハラの詳細が具体的に記されているが、その内容もさることながら、告発の方法や経緯に至るまで、日本女子柔道のケースと驚くほど酷似している。監督が男性、女性であるという違いや、タレス監督のケースは、殴る、蹴るなどの暴力による体罰こそなかったものの、どちらのケースも、日々の練習の中で監督が選手に向かって日常的にパワハラや暴言を繰り返し選手に過度なプレッシャーを与えていたこと、その国の「お家芸」とも言われる代表的な競技の女子ナショナルチーム内で起こった事件であること、これも偶然なのか、双方とも15名が連名で連盟宛に告発の手紙を出していることなど、多くの共通点がある。あくまで推測ではあるが、日本の柔道選手が何らかの形でスペインのケースを知り、同様のアクションを起こすきっかけになったという可能性も否定できない。
ただ、事件発覚後の対応は両国で大きく異なっている。JOCから公表されるまで園田監督を擁護し、当初は続投を決めた全日本柔道連盟に対し、スペイン水泳連盟は、選手からの直訴を受けて即座に監督の解任を決めている。とはいえタレス前監督は、この解任劇の背景にはスペイン水泳連盟内での対立抗争があり、その裏でスペイン水泳連盟の会長であるフェルナンド・カルペナ氏が糸を引いていると確信しているようだ。タレス前監督によれば、以前から自分と水泳連盟会長との間には確執があり、タレス監督を解任したかった会長が、その口実作りのために選手をそそのかし、仕向けたと言うのだ。一方、タレス氏から黒幕と名指しされたカルペナ会長は、選手の告発については「事前には一切知らなかった」と主張し、この件への自身の関与を否定している。
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両国のケースでは、当事者の事件発覚後の身の振り方も異なっている。この件がマスコミで公表された後、全面的に自分の非を認めて公に謝罪し、自ら監督を辞任した園田監督とは対照的に、タレス前監督は、自身の名声を守り、正当性を主張するため徹底抗戦することを選んだ。タレス氏は、手紙に記されていた暴言やパワハラとされる出来事一部が「事実と異なる」と否定。その後も、「手紙を公開され、メディアによるバッシングを受けたことで、これまで築いてきた社会的地位やイメージを著しく傷つけられた」、「契約解除は一方的なものであり、連盟は契約期間の給与の一部を支払うべき」として、逆に水泳連盟会長を相手におよそ8000万円の支払いを求める訴えを起こしており、両者の裁判は現在も継続中である。
さらに日本と異なるのは、スペインでは、手紙に署名した全選手の実名が公表されたことだ。だが、この中には、スペイン・シンクロ史上最も有名な選手だったジェマ・メングアルの名前は含まれていない。事件発覚後、メングアルや一部の現役選手はタレス監督を擁護する発言をしており、選手たちの間でも同監督の指導に対するとらえ方に大きな違いがあるようだ。このように、連盟での告発に賛同しなかった現役選手や元選手たちの中には、タレス氏を擁護する声もある。
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一連のスキャンダルから4か月が過ぎ、新体制の下、落ち着きを取り戻したかのように見えたスペイン・シンクロチームだったが、一連のスキャンダルに巻き込まれた選手間の動揺は完全にはおさまっていなかった。地元バルセロナでの世界水泳を6か月後に控えた先週、スペイン・シンクロ史上、個人で最多」のメダルを獲得したチームの主将アンドレア・フエンテスが突然、現役引退を発表した。フエンテスは引退会見の場で、29歳という年齢や体力の衰えではなく、タレス監督解任騒動の余波で自身のモチベーションが維持できなくなったことを理由に挙げた。フエンテスは以前も、自身を一流選手に育ててくれた恩師として同監督への信頼と感謝を口にしており、水泳連盟の処遇に対する不満を暗に示唆していた。
一連のスキャンダルがメディアで大々的に報道されたことで、国内での指導者としてのイメージを大きく落としたタレス氏だが、国外では、15年にもわたりスペインのシンクロを引っ張り、ここまで育て上げた同氏の手腕を評価する声も依然として根強いようだ。オリンピック直後には、カナダ、ブラジル、イタリアのシンクロチームから監督就任の打診があったというタレス氏だが、近々、メキシコのシンクロチーム監督に就任する可能性が濃厚だ。現在、両者の契約交渉は最終段階に入っていると言われている。
華やかなスポーツの祭典オリンピックが終了した区切りのタイミングで、スペインと日本の両国で、メジャースポーツのエリート養成の場で指導者による暴力やパワハラが日常的に行われていることが露呈したのは、決して偶然ではないだろう。暴力や度の過ぎた体罰、暴言やパワハラで選手に圧力をかけるような旧態依然とした指導方法は糾弾されるべきだし、選手からの信頼を得ることもできない。ただ、こうした一方で、極限の状況や尋常ではないプレッシャーを受けながら練習する環境の中でこそ世界で勝てるメンタリティを養えるという現場の考えを支持する声もあり、そのあたりの線引きはあいまいだ。このあたりの指導方法をめぐっては、今後も議論がわかれそうだ。