ヨーロッパニュース一覧

2013-10-22

ヨーロッパ・ニュース Vol.222

2013/10/22


男子バレー: クラブW杯はブラジルのクルゼイロが初優勝

<クラブ世界一に輝き歓喜に沸くクルゼイロ>

 ブラジルのベティンで開催されていた男子バレーボールのクラブチーム世界一を決めるクラブW杯は20日に決勝戦が行われ、南米王者で地元クラブのサダ・クルゼイロ(ブラジル)が欧州王者のロコモティフ・ノヴォシビルスク(ロシア)を3-0のストレートで破り、念願の初優勝を飾った。昨年ドーハで行われた大会では決勝まで残りながらトレンティーノ(イタリア)に敗れたクルゼイロだが、地元開催の今年、見事にその雪辱を果たした。これまで過去8回行われたクラブW杯ではいずれもイタリア勢が優勝しているが、クルゼイロはこの流れにストップをかけ、同大会のタイトルを初めて南米にもたらした。なお、昨年優勝のトレンティーノは準決勝でロコモティフに敗れたが3位決定戦でUPCN(アルゼンチン)を下して、かろうじて銅メダルを確保した。


<欧州優位の勢力図に変化>

<MVPに選ばれたクルゼイロのワレス>

 男子バレーではこれまで、主に中南米の一流選手が欧州のトップクラブに移籍してプレーする傾向があったが、欧州の財政危機、南米の好況を受けたリーグの活性化などにより、近年ではブラジルやアルゼンチン出身の有望選手が欧州へ行かず母国に残ってプレーすることも多くなった。これに伴い、南米のクラブチームの台頭が目立っている。                   

<日本のパナソニックは健闘もグループリーグ敗退>
 今大会にはアジア代表として日本からパナソニック・パンサーズも参戦。日本代表の清水やブラジル代表ダンチが活躍し健闘を見せたものの、1勝2敗でグループリーグ3位となり惜しくも準決勝進出は逃した。しかし、全日本の選手を多く揃えるパナソニックにとって、世界最高レベルのトーナメントに参加し、アウエーの地でトレンティーノのような世界のトップチームと真剣勝負の場で戦うことができたことは、世界で戦う上で貴重な経験となるだろう。

<男子バレークラブW杯最終順位>
1.サダ・クルゼイロ(ブラジル) 2.ロコモティフ・ノヴォシビルスク(ロシア) 3.トレンティーノ・ディアテック(イタリア) 4.UPCN(アルゼンチン) 5.パナソニック・パンサーズ(日本)、スポルティフ・スファシェン(チュニジア) 7.ラ・ロマーナ(ドミニカ) 8.カレー(イラン)



男子ハンドボール: 欧州CL注目の一戦はバルサに軍配

<世界最優秀選手受賞者カラバティッチ(左)とハンセン(右)>

 男子ハンドボールの欧州チャンピオンズリーグ第4節でグループC注目の一戦PSG(フランス)対FCバルセロナ(スペイン)がパリで行われた。
昨シーズンのCL準優勝チームで、今季もカラバティッチ、ラザロフらを補強しさらにパワーアップしたバルセロナと、1300万ユーロ(約17億円)というハンドボール界では破格の予算を武器に、昨年度の世界最優秀選手に選ばれたフランス代表のナルシス、その前年に同賞を受賞したデンマーク代表のハンセンを始め、ボリ、アバロといった世界選抜級の選手を揃えたPSGの対決は、ハンドボールファンにとって見逃せないドリームマッチとして好試合が期待された。
 序盤はGKアノネの好セーブでPSGが主導権を握るが、バルセロナもその後、カラバティッチ、ビクトル・トマスらが立て続けにゴールを決めて追いあげ、前半は17-17と互角の戦いとなる。しかし、後半に入ると総合力で上回るバルセロナが攻勢を強め徐々にリードを広げると、PSGはゴージュンがレッドカードで退場するなど劣勢に立たされる。バルセロナは守りでもGKシリッチが好セーブを連発して相手の攻撃を止める一方、ラザロフのPGなどで確実に得点を重ねてリードを保ち、最後は33-29のスコアで勝利した。
 今季のCL開幕前はダークホースになると言われていたPSGだが、ここまで本来の力を発揮できておらず、この敗戦で1勝2敗1分の5位に順位を落とし、グループリーグ突破も厳しくなってきた。

<THWキールが敗れる番狂わせ>
 CLグループラウンド第4節のグループBで、2シーズン前のCL王者THWキールがヴィヴェ・ターギ・キェルツェ(ポーランド)に29-34で敗れるという番狂わせがあった。ここまで全勝同士の対決を制したキェルツェはこの勝利で4連勝とし、単独グループ首位に立った。


サッカー: セリエAの名門インテル買収に見る欧州クラブへの外国資本参入の現状

<インテルの売却を決めたモラッティ氏と新オーナーのトリル氏>

<世界最優秀選手受賞者カラバティッチ(左)とハンセン(右)>

 15日に発表されたインドネシアの実業家によるイタリア・セリエAのインテル・ミラノ買収劇は欧州サッカー界に少なからぬ衝撃を与えた。この買収合意により新たなオーナーとなるエリック・トリル氏は、3億ユーロ(約400億円)と引き換えに同クラブの70%の株式を取得し、イタリア屈指の名門クラブを手に入れた。同クラブには日本代表の長友佑都も所属しており、日本でもよく知られている。
 18年にわたり同クラブのオーナー兼会長を務めてきたマッシモ・モラッティ氏の個人資産をベースに運営されてきたインテルだが、ここ数年は資金繰りに苦しんでおり売却の噂が絶えなかった。半数以上のクラブが外国資本下にあるイングランドのプレミアリーグとは異なりイタリアのセリエAではほとんどのクラブが株式非公開のオーナー会社や個人の元で運営されており、外国人をオーナーに持つクラブはほとんどいない。現在、セリエAで唯一の外国資本によるクラブは、2011年にセンシ・ファミリーから株式の60%を取得したアメリカ人実業家のディ・ベネデット氏がオーナーを務めるASローマのみだ。今回の買収によりトリル氏はセリエAで外国人として2人目、アジア人としては初のオーナーになる。ローマに続き、欧州屈指のビッグクラブのひとつであるインテルが外国資本に売却されたインパクトは決して小さくない。財政難と巨額の負債に苦しむ多くのイタリア人オーナーたちにとって、外国資本へのクラブ売却はひとつの選択肢である。だが、買収する側も投資に見合うだけの価値やメリットがそのクラブになければ触手を動かさないだろう。イタリアに限れば、立地が良く、そここそのネームバリュー、サポーター数、固有資産を持ち、かつマーケッティング効果が見込めるクラブは限られており、地方のクラブが簡単に売却先を見つけるのは難しいだろう。

<インドネシアの若き実業家の素顔>
 今回のインテル買収の中心となったのはインドネシアの若き実業家(弱冠40歳)のエリック・トリル氏と彼の率いるインターナショナル・スポーツ・キャピタル社だが、同氏は国内外で積極的にスポーツクラブの買収を進めており、インドネシア国内で2つのサッカークラブを所有している他、NBAのフィラデルフィア・セブンティシクサーズ、MLSのDCユナイテッドの共同オーナーにもなっている。インドネシア屈指の企業グループであるアストラ・インターナショナルホールディング創設者の父親を持つトリル氏だが、自身も資産家として知られており、2012年の米経済誌フォーブスの長者番付では世界1250位にランキングされている。長年、個人の資産でクラブを支えてきた前オーナーのモラッティ氏はサポーターから愛されてきたが、サポーターの間では、イタリア人から外国人オーナーに代わることによる抵抗感はさほどないようだ。彼らは、かつてロシアやアラブの大富豪に買収されたイングランドのチェルシーやマンチェスター・シティ、フランスのPSGのように豊富な資金力注入によってチーム力が大幅に強化され、かつての強さを取り戻すことに大きな期待をかけているに違いない。一方、トリル氏にしてみれば、欧州の名門サッカークラブのオーナーに就任することでヨーロッパに新たなスポーツビジネスの拠点を築き、欧州で社会的ステータスを手に入れることができる代わりに、今までのオーナー以上に厳しい視線にさらされることになる。サポーターが期待するのは「金は出すが口は出さない」”物言わぬオーナー”であり、資金を惜しまずチーム強化をはかって結果を出し、かつ経営基盤を安定させることができなければ、短期間でクラブを追われることになるだろう。イタリアは未だアジア人への偏見が根強く残るお国柄だけに、外様オーナーには相当の覚悟が必要だ。もちろん、これはイタリアに限ったことではなく、イングランドでもスペインでもこうした例はある。

<イングランド・プレミアリーグで増加しつづける外国人オーナー>
 一口に欧州のサッカークラブといっても運営形態は国ごとに異なる特徴を持つ。たとえばイタリアでは、企業のオーナーが個人やファミリーでクラブの株を所有するクラブが多い。またスペインでは、FCバルセロナが知られているようにオーナー制でなくソシオ(会員)制をとるクラブが残っており、こうしたクラブではソシオにより選ばれた会長がクラブ経営を任される。一方、ドイツではバイエルンやフォルクスワーゲンといった大企業がクラブを所有し経営しているケースもある。これらの国のリーグは比較的クラブに外国資本が入りにくいシステムになっているが、対照的なのがイングランドのプレミアリーグだ。イングランドのクラブの多くは株式が公開されており法的な取得が容易であることから、プレミアリーグでは以前から外国人投資家によるクラブ買収が盛んだ。その証拠に、現在プレミアリーグ20チームのうち半数の10チームのオーナーが外国人である。国別の内訳でいうと、マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、リバプールなど6チームがアメリカ人オーナーで最も多く、その他、チェルシーのロシア人富豪アブラモビッチ氏やマンチェスター・シティを買収したUAEの王族オーナー、スイス人、エジプト人のオーナーがいる。また、今シーズン51年ぶりにトップリーグに復帰したカーディフ・シティのオーナーは現在プレミアリーグで唯一のアジア人でマレーシア人実業家のビンセント・タン氏だ。タン氏の資金援助によりカーディフはチーム強化に成功し、今季、長年遠ざかっていたプレミアリーグ昇格を果たすことに成功した。一方、欧州のトップリーグにはまだ日本人オーナーはいないが、2012年にスペイン2部のサバデルを買収した実業家の坂本圭介氏が、現在リーガ・エスパニョーラ1部昇格を目指して奮闘中だ。