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2015-1-19

『守備的オープニングについての考察』

◆はじめに

 ボールスポーツにはモバイル(ボールなどの物体)が常に介入する。1つのモバイルを中心にゲームが展開されるゲーム性質である。そしてゲームの目的は多くの場合、そのモバイルをゴールやターゲットに到達させることにある。そのためトレーニングの課題が攻撃にフォーカスされることは、合理的であり選手のモチベーションにもポジティブに作用する。また同じモバイルの扱いでも、バスケットなどゴールキーパーが存在しない場合、攻撃的アナリティックトレーニングに重点があてられる傾向が強いと筆者は分析する。フットサルやホッケーのようにゴールキーパーがアクティブに関与する競技の場合、トレーニングは協力関係、または対人関係の多いグローバル局面にフォーカス比率が高くなる。

 しかしボールスポーツにおいて、守備局面の重要性は計り知れない。それは集団スポーツであり、対人スポーツであることに深く関係している。またモバイル(ボールなどの物体)を扱うことから、攻守にわたり不確定要素および素早い役割転換が伴うのも、ボールスポーツの重要な側面だ。攻守の切り替えに限らず、素早いリスタートやロールチェンジなどを含んだ“包括的トランジション(切り替え)”がゲームを制覇する鍵となる。このトランジションの重要性は、多くの競技に共通している。スペインでは多くの指導者がトランジションの重要性を説いており、またそれに対するアプローチも広く研究されている。

<攻守の切り替えの瞬間にあるオープニングについて考える>

◆攻撃トランジションの段階分け

 カウンターなどによる得点が重要視される、トランジション時代を迎えた競技も多くある。それではトランジションを、まずは攻撃局面にフォーカスしながら段階分けしてみる。①ボールを奪い返してからオープニング、②数的有利によるカウンター攻撃、③数的同数でも乱れた守備に対する速攻、④攻撃を組織してからの定位置攻撃、という4段階が考えられる。ボールを奪い返してから、即時に有利な状況でカウンター攻撃を仕掛けるか、それとも形を揃えて定位置攻撃を始めるのかという決断は“オープニング”における状況知覚認識および決断に大きく左右される。

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◆守備トランジションの段階分け

 攻撃の鏡となるように、守備局面においてもトランジションを段階分けすることが可能だ。①ボールを奪われてからのプレス、②カウンター攻撃に対する遅延行為、③守備を組織しながらの撤退、④組織された守備からの戦術守備、そのように大枠を捉えることができる。守備の撤退、遅延、または奪い返しへのオープニングにおける認知、決断、実行が成功のポイントとなるのは攻撃と表裏一体の事実であろう。また伝統的なメソッドではあるが、ボールを失ったらまずは撤退しながら遅延行為により守備の組織を試みるのは、合理的かつ安全な守備的オープニングの選択肢である。

 よく“カウンターのカウンター”による失点がフットサルなどでは発生する。ボールを奪った選手が攻撃トランジションのオープニングにより、アクション原理サイクル(知覚認知、決断選択、技術動作)のプロセスを誤った場合に頻繁に起こる現象と考えられる。しかし守備的オープニングの精度については、あまり触れられていない現状もある。包括的トランジッションを研究する場合、オープニングにおけるアクション原理サイクルの精度の高さは、攻守において限りなく重要なポイントとなる。素早いリスタートであれ、リバウンドの状況であれ、カウンターを仕掛ける局面であれ、ボールを奪い返すアクションにしても、オープニングの質が攻守の切り替えにおける成功の鍵を握っていることは確かだ。

◆包括的オープニングについて考える

 今回のコラムでは、まずは包括的なオープニングの定義を考えながら、攻守の切り替えにおけるオープニングについて研究してみよう。特に今回は、守備的オープニングの重要性にフォーカスを当てながら、幅広くオープニング局面を理解する切り口を紹介する。なお攻撃側と守備側の両方にオープニングが存在するため、アナリティックな環境では包括的オープニングのトレーニングは困難となることに留意していただきたい。

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◆守備的オープニング

 普段は攻撃的オープニングばかりにフォーカスが当てられ傾向にあるが、今回は守備的オープニングを主体にオープニングの種類などについても考察したい。包括的オープニングの定義にもあるように、守備的オープニングとは守備側が最初に起こすアクションまたはそのインテンションである。この守備的オープニングは、広義で解釈すればボールを奪った瞬間のみに限定されることはない。例えば対戦相手がローテーションを開始した場合、または攻撃側により特定の状況が発生したタイミングにも適用できるオープニングコンセプトである。例えば対戦相手がハーフラインまでボールを運び、定位置攻撃を開始した瞬間に、守備的オープニングが発生する。

 このような包括的観点から考えれば、守備オープニングはあらゆるゲーム局面に存在することになる。リセットの瞬間、攻守の切り替え、攻撃側がセットポジションをとった瞬間・・・カウンター守備という枠を抜け出して、総合的状況認知からの守備的オープニングによるトレーニングの状況判断が可能となる。なお攻撃側と守備側の両方にオープニングが存在するため、アナリティックな環境では包括的オープニングのトレーニングは困難となることに留意したい。

<セットプレーなどの対応も包括的オープニングとなる>

◆4大局面における守備的オープニングとそのレベル分け

 守備的オープニングには当然ながら、複数のレベルが存在する。そして指導者はチームに対する各局面ごとのレベル別オープニング強化により、守備をより強固かつアグレッシブに整理することが可能となる。まずは守備的オープニングの局面分けを整理してみよう。攻守の切り替えにより守備的オープニングが発生する局面には、ボールゲームの4大局面にそのまま応用する。

 定位置守備におけるオープニング

 守備的トランジションにおけるオープニング

 セットプレー守備におけるオープニング

 特殊状況守備におけるオープニング

 そして各守備局面ごとに、異なるレベルの守備的な対応方法が存在する。その対応方法や目的を基準としながら、守備的オープニングのレベル分けを整理してみる。異なるレベルの対応方法だが、守備の原則プロセスをベースに考えよう。守備的オープニングのプロセスにおいて、選手達をどのようなレベルに導くことが可能だろうか。

 反撃レベル- 素早く相手のボールを奪い返し攻撃する

 阻止レベル- 相手のボール進行またはエリア侵入を妨げる

 対応レベル- 相手の理想的なフィニシュを妨げる

 緊急レベル- リバウンドやフィニシュ後の緊急処理

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◆戦術的オープニング、戦略的オープニング

 守備的オープニングだが、クラブ哲学、地域性、守備意識、戦術守備、戦略状況、練習環境、リーグレベルなどにより大きく左右されることも覚えておきたい。守備戦術に消極的なチームの場合、この守備的オープニングが戦術的に単調であったり、変化に乏しかったりする。守備のトレーニングを重視しない、または守備意識が低いため、当然ながら守備に対するバリエーションを持たせることも困難になるのだ。

 戦略的観点から考える守備的オープニングだが、試合に勝っている状況でカウンターにチャレンジするよりも、ボールを奪い返したらまずは丁寧にポゼッションを実行する状況などがその代表例だろう。リードの状況を守るため、チャンスでもトランジションを急がずに、しっかりとボールを保持するという戦略決断などもオープニングに大きな影響を与える。

◆守備的オープニングの不確定性

 ボールスポーツにおける包括的トランジションは、競技を問わずに実に頻繁に発生する。ボールを失った瞬間にどのようなアクションをとるか、何が最善のオプションか、指導者側からトレーニングを提供する必要がある。トレーニングから意識的に守備的オープニングに働きかけることで、より幅広いトランジッション状況に対応する選手を育てることが可能だ。その守備的オープニングだが、以下に繰り返しリストアップする4レベルに分類できる。そして各守備的オープニングレベルに応じて、トレーニングのレベル調整も可能となる。

◆4つの守備的オープニングレベル

 反撃レベル - 素早く相手のボールを奪い返し攻撃する

 阻止レベル - 相手のボール進行またはエリア侵入を妨げる

 対応レベル - 相手が好ましい形でフィニシュすることを妨げる

 緊急レベル - リバウンドやフィニシュ状況からの緊急処理

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◆トレーニングによる学習プロセス

 選手はゲームトレーニングや試合を通して、試合に起こる様々なオープニングに対応する能力を習得することもできる。ストリートサッカーで育った天才少年が、指導者の存在もなく自然とゲーム局面を理解するのがその1つの例だ。同時に指導者のサイドから、選手の習得プロセスを加速させることもできる。守備的オープニングレベルごとに、異なった性質のトレーニングを準備することが理想だ。選手の自然習得力に頼らず、計画されたトレーニングによって選手の成長を助長する。

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 指導者として、常に選手に対して何を目的としてトレーニングが行なわれているかを理解させる必要がある。選手が指導者の目的やトレーニング定義を理解することで、トレーニングに対して協力的になることも期待できる。指導者がトレーニングを細分化して計画しながら操ることで、選手は全ての過程がチームの状況改善のためにあると理解できるようになる。