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アディダスVSプーマ もうひとつの代理戦争



 世界を代表するスポーツメーカー、プーマとアディダスを知らない人はいないだろうが、双方の創業者は兄弟だった、ということを知っている人はまだ多くないだろう。まして、兄弟の間に壮絶な争いがあったことなど。バーバラ・スミット著の「アディダスVSプーマ」は双方の競争と拡大の軌跡を丹念に記している。
 二つのブランドはドイツ南部の小さな村、ヘルツォーゲンアウラッハで生まれた。ものづくりに秀でた弟、アドルフ・ダスラーとものを売るのが得意なルドルフ・ダスラーは経営方針の違いから次第に反目し合い、川を挟んで互いの会社を立ち上げる。選手に自社製品を使ってもらおうと、トレーニングウェアやシューズの無料提供を始めた。やがて対岸の戦いは、主戦場をオリンピックやW杯にまで拡大し、多額の契約金が飛び交うビッグビジネスに発展させる。
 例えば、世界的サッカー選手、ペレをめぐっては、ペレとの契約金の高騰を恐れ、両者とも手を出さない、という「ペレ協定」を結んだ。にもかかわらず、プーマが禁じ手を使ってペレと提携し、その後何年も商品の安定した注文を手にした。その逆もしかり。アディダスの二代目、ホルスト・ダスラーは国際オリンピック委員会(IOC)を長く務めたファン・アントニオ・サマランチと懇意になり、オリンピックにおけるさまざまな権利を独占した。
 今や商業化の一途をたどるオリンピックとW杯。この現象にはスポーツメーカーの“貢献”なしにはありえなかったことを痛感させる一冊だ。=敬称略(有)