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斎藤祐樹くんと日本人


 日本中を高校野球に釘付けにさせたあの熱い夏から2年が経つ。舞台は甲子園球場、そして、主役は早稲田実業のエース、斎藤佑樹。静かで端正なたたずまいながら死闘を制する姿に、若者だけでなく中高年まで「今どきこんな子がいるなんて・・・」と熱狂した。「ハンカチ王子」は一世を風靡し、社会現象にもなった。斎藤関連や伝説の試合になった「早実VS駒大苫小牧」を振り返る本が相次いで出版されたほどだ。
 本書は、そんな「斎藤本」の1冊で、斎藤の人気の理由を分析、解説している。興味深いのは、最近の時流からは異なる種類のかっこよさを持ち、黒の詰襟の学生服が似合う斎藤の魅力を「昔の日本の匂いがする」と表現し、昭和のスター、市川雷蔵や若き日の古今亭志ん朝と重ね合わせる。もちろん、見た目だけではない。優勝を決めたときにまず周囲への感謝の言葉を口にする受け答え、成長を続けたい、というどん欲な意識、スーパースターとしての度量と覚悟まで兼ね備えていることにも触れる。著者はあとがきで、「あんな静かな、おとなしい顔をしているのに、結果的には・・・(中略)派手で激しい展開になりがちだ。斎藤にはどこか不思議なファンタジーさが漂っている」と分析し、それは「斎藤のドラマを引き寄せる力の強さ」に起因するのだと結論づける。
 斎藤は現在大学2年生。主戦場を神宮球場に変えても、やはり早大のエースとして六大学野球を牽引している。常に「成長」し続けている。=敬称略