冬の喝采
『トップ・レフト』や『エネルギー』など経済小説を多く手がける著者は箱根駅伝にランナーとして2回出場するという珍しい経歴を持つ。本作は初の自伝的小説で「これを書くために私は作家となった」と言い切る意欲作。 著者は元マラソン選手の瀬古利彦氏とチームメート。中学生で本格的に走り始め、高校総体にも出場した。けがでいったん競技から離れたが、1年遅れで早稲田大学競走部の門をたたいた。昭和54年の大会では2区の瀬古氏から1位でたすきを受け取り、1位を保ったまま4区につなげる。物語はこの回想シーンから始まる。 著者の子細にわたる練習描写シーンに圧倒される。本作では、名将と言われた中村監督とのエピソードが多く盛り込まれ、ときに常識外れな監督の指導方針に反発し、退部を申し出たこともあったことなども明かしている。 エピローグでは自身の出生にまつわる衝撃の事実が明かされる。ヒントは「箱根ランナーになったのは宿命だった」。箱根駅伝前に読むと本番も違った視点で楽しめそうだ。
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