イチオシ!スポーツ Book Review一覧

In His Times 中田英寿という時代




 2006年のドイツW杯直後に引退を発表した後はメディアにはほとんど登場することがなかった元日本代表の中田英寿が今年1月、久しぶりに公の場に姿を見せた。自身が代表理事を務める一般財団法人「TAKE ACTION FOUNDATION」とサッカークラブ「TAKE ACTION FC」の設立を発表したのだ。FCのメンバーは、日本でサッカーが一番盛り上がった1990年前半に絶頂期だった元日本代表の面々が名を連ね、サッカーファンでなくともワクワクするような布陣。新しいビジネスモデルを仕掛ける中田とはどんな人間なのか知りたくなり、本書を手に取った。
 著者はスポーツ新聞社勤務時代から当時はまだ高校生だった中田を日々追い続け、プレー以外にも非凡な才能に魅せられる。「セリエAに行く」「僕は、誰のことも目指さない。今と、未来だけを目指している」。高校生離れしたこれらの発言は、中田がプロになる前からプロ意識の塊だったことを示唆している。実際、中田のサッカーに対する〝哲学〟はブレがなく、その哲学があるからこそ、どの地でも自分の場所を見つけ、役割を果たしてきたのだと分析する。著者は中田を追い、イタリアにもたびたび足を運び、ぶっきらぼうに聞こえながらも非常に論理的な中田の真意を引き出す。
 「サッカーは因数分解を解くのに似ている」。高校3年生だった中田はこう言ったという。ドイツW杯のブラジル戦後、ピッチに横たわったまま動かなかった中田の脳裏に「答え」は出たのだろうか。著者が出した答えはエピローグにある。=敬称略