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屈辱と歓喜と真実と ”報道されなかった”王ジャパン121日間の舞台裏




 2006年3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック、通称WBC。米メジャーリーグ主導で突然開催が決まった感も強かった〝野球のワールドカップ〟。得体の知れない大会に対する拒否感は強く、一部選手は出場を辞退する事態になったが、そんな中、2人の偉大な野球人が日本代表チームをまとめあげ、奇跡のWBC初優勝を日本にもたらした。いわずと知れた王貞治監督とイチロー。本書では、メジャーリーグでも最もその名を知られた2人を軸に、王ジャパンが優勝するまでの軌跡を綴った「日本代表物語」だ。
 本書を読んで伝わってくるのは、王監督とイチローの信頼関係の深さ。WBC出場を一度は迷っていたイチローは、「王さんがWBCの監督を引き受けられた。その決断を下されたことに対して、僕は王監督の気持ちの強さを感じた」と王監督の存在そのものが動機と語り、王監督も「同じ技術屋としてね、僕が見ていて球の捉えが頭抜けてるんだよ」と互いを尊敬し合う。とはいえ、違うチームや環境から集まった代表チームが最初からうまくいくはずがない。投手陣と野手陣。アテネ五輪に出た選手と、それ以外の選手。メジャーを意識している者と意識していない者…。多くの溝を少しでも埋めるべく、イチローがチームのために熱く奔走するさまは、これまでのイチロー観を一変させる。著者が優勝直後に目撃した描写がいい。イチローが日の丸を手にして王監督のもとへ歩み寄ると、日の丸がふわっと2人を包み込んだのだという。優勝への功労者2人を日の丸がねぎらったようで、最後の最後で温かい気持ちになった。
 本書は試合の分析というよりは、選手らのそのときの心情がメーンになっているので、野球初心者でも一気に読破できる。3月に行われる第2回WBC前に読めば、大会も違った視点で楽しめるだろう。