秋天の陽炎
本書は1994年に発足した大分トリニータが、J1昇格をかけて争った99年11月21日のJ2リーグ最終節、対モンテディオ山形戦の〝死闘〟の話が8割を占める。Jリーグの中では、どちらかというと地味な存在で、しかもJ2の数ある中の1試合。まず、筆者の着眼点に興味を抱き、実際に本書を読んで、試合自体のドラマに引き込まれた。 大分は99年1月、Jリーグに参加したばかりの若いチーム。ところがJ2参戦の1年目、大分は予想外の奮闘を見せ、最終節を残してリーグ2位という好位置につけていた。大分監督の石崎信弘でさえ、「J1昇格は絶対的な目標ではなかった」という。しかも、最終節の相手は、石崎が前年まで4年間監督を務めた山形。このシーズン、山形には対戦成績で負け越していたこともあり、油断のできない好敵手だった。大分のホームゲームは平均で3000人にも満たなかったが、この日の大分市営陸上競技場には、公式発表で1万5702人が集まった。 試合の行方は・・・、本書を読んでのお楽しみだが、著者の視点でもう一つ面白いのが、この試合の主審を務めた北海道で教鞭を執っていた越山賢一に焦点を当てた点だ。「この物語を書くまで、僕は一度たりとも審判の立場に立ってサッカーを考えてみたことがなかった…なぜ僕は審判に対して厳しい目を向けていたのか。彼らを知らなかったからだった。なぜそれが変わったのか。彼らの仕事の一旦をかいま見たからだ。無知は、怖い。公平さを装った無知は、もっと怖い」。この言葉が、スポーツを多面的にとらえることの大切さを気づかせてくれる。そしてもちろん、スポーツのあらゆるすべての試合に感動がある、ということも。=敬称略
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