イチオシ!スポーツ Book Review一覧

こんな凄い奴がいた




 「輝かしい栄光の陰には、普段、私たちが見ることができない凄まじい努力が隠されていた・・。」という表現は、アスリートの成功体験を記した書物の中によく見られる。いや、その手の書物やアスリートを特集した記事では、もはや使い古された『常套句』と言ってもいいだろう。本書を手にした時、私は失礼ながら「この本も、アスリートの成功体験や陰の努力を美しく描いた、よくある類の書物だろう・・。」と勝手に決めつけてしまった。しかし、読む中で、本書は、いわゆるよくあるアスリート関連の書物とは異なることに気づかされる。世界の頂点を目指そうとするアスリートは誰しも、栄光をつかむために、自らの肉体および精神の限界に挑む。オリンピックや世界選手権などは、そのようなアスリートたちが世界中から一同に会する大会であり、戦いはぎりぎりのレベルで繰り広げられる。それゆえに、他のライバル達の一歩先を行くために、日々の生活から栄光に向けた『思考』が求められるだろう。本書の、ソウル五輪・男子100メートル背泳ぎで金メダルを獲得した鈴木大地氏の項には、本人のコメントとして「誰よりも早くゴールタッチするには、どうしたらいいかを考えていました。」と書かれている。まさにこの思考こそが、本書のタイトルにある『凄い奴』の『凄さ』ではないだろうか。本書には、そんな凄さがぎっしりと詰まっており、ただ読むだけではなく、私たちの日々の生活においても十分参考になる一冊である。