「五輪ボイコット」~幻のモスクワ、28年目の証言
労作、大作である。 日本のスポーツ界にはこれまで、エポックメイキングな出来事が数多くあったが、1964年の東京オリンピック開催と1980年のモスクワオリンピックボイコットはともに歴史上の大きな転換点と言っても過言ではない。 東京オリンピックがポジティブな遺産であるとすれば、モスクワボイコットは大きな負の遺産といえるだろう。1980年のモスクワボイコットを当時の関係者のインタビューを中心に書かれたこの本は、類まれなるノンフィクションである。「オリンピック不参加という、日本史上最悪の『敗北』あの時何が起こっていたのか」…とあるとおり、当時の関係者の多くが鬼籍に入られる時代となり、その真相を知る手段が次第に失われてゆく。「モスクワオリンピックのボイコット」を封印し、風化させてはならない。これは、誰かが書かなければならなかった。そして、著者の執念がこのノンフィクションとして結実した。 1980年以来日本のスポーツ界は長い低迷の時代を迎え、JOC独立など大きな流れがはじまる。このノンフィクションは著者の「スポーツ界の自立」への熱い提言でもある。 スポーツ人のみならず、全ての人に読んでもらいたい名著であり、著者渾身の傑作である。
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