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メジャーリーグとても信じられない話




 メジャーリーグの話題が日本のプロ野球を質量ともに凌駕するようになったのはいつからだろう。野茂英雄選手がロサンゼルス・ドジャースで活躍し、イチローがシアトル・マリナーズで記録を作り続けた頃から、衆人の関心はメジャーにシフトしていった。ただ、今ではキャンプからワールドシリーズまで、日本にいながらつぶさに知ることができるようになったものの、「メジャーリーグの全てを知っているか」と問われると答えは「ノー」だ。本書は、アメリカ人のフリージャーナリストが14歳のときから追い続けてきたメジャーリーグのサイドストーリーを中心に展開する。 
 例えば、「人種差別の国で松坂がもてはやされるわけ」の項では、松坂がボストン・レッドソックスに入団した直後から、アメリカの媒体も含めて松坂の報道合戦が加熱した現象に触れている。著者はフィーバーの背景に、ボストンという都市は人種差別を踏襲してきていることに触れ、「レッドソックスは球界一の人種差別チーム」で「松坂の契約は自分たちの罪の意識を和らげ、ボストンが国際都市になったという気取りと歓喜にうまく便乗したようだ」と断じる。他にも、比較的有名になった「ベーブ・ルースの呪い」から「夏でも氷点下のサンフランシスコ・ジャイアンツの球場」「シカゴ・カブスを襲うヤギの呪い」などタイトルから刺激的な珠玉のエッセイ26編が収録されている。
 本書を読み、アメリカの文化、風土、人種問題など幅広い知識を得ると同時に、野球のチームは地域とのつながりなしには成り立たないことを知る。ちなみに、著者はエピローグでメジャーリーグが日本のプロ野球に進出される可能性にも言及している。本書は、プロ野球を救うヒントもそこここにちりばめられている。