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栄光と狂気 オリンピックに憑かれた男たち




 これはボート競技の一つであるスカルのオリンピックアメリカ代表の座をめぐり、またスカルに人生を懸けた男達のノンフィクションである。
 ティフ・ウッド、ジョン・ビグロウ、ジョー・ブースカラン、ブラッド・ルイス、ポール・エンクイストなどの代表候補の選手を中心として、彼らがどうしてスカルの選手になっていったのか、その生い立ちから描かれており、また彼らを取り巻くや多くの選手や、さらにコーチであるハリー・パーカーの半生も盛り込まれている。
 スカルは自身の肉体と精神を酷使する非常にハードな競技であり、レースでは他の選手はもちろん、常に自身との戦いである。各選手達は苦痛に耐えて一握りの者しか得られない栄光を求めて漕ぎ続ける。またスポーツがビジネスと密接に繋がっているアメリカにおいて、スカルは珍しく本当のアマチュアの競技となっている。19世紀後半の一時期は人気スポーツであったものの、賭けの対象となり八百長の疑いがもたれると一気にその人気は衰退してしまった。
 また競技の性質上、テレビカメラには馴染まずに画面上から映し出されるスカルには優美さはなかった。このため、スポーツの商業化が進む20世紀において、スカルは19世紀から変わらない閉ざされた世界であった。
 物語に登場するどの選手もスカルに人生を賭け、競争心と情熱をもって取り組んでいる。その姿は時折、狂気じみたものである。またレースでは非常に頭も使う。選手間での駆け引きによる緊張感が伝わってくる。物語の後半で描かれている代表決定戦、さらにオリンピックの決勝戦やそれに至るまでの日々の中で各選手の苦悩する姿が描かれており、いかに栄光への道のりが困難であるのかが分かるだろう。是非、この本をきっかけにスカルの世界への興味を、そして栄光のために奮闘していた男達がいたことを知って頂きたい。