敗因と
まず、衝撃を受けた。2006年のドイツW杯。事前のテレビ、新聞、雑誌で日本代表に関する情報や“侍”たちの思いを暗記するほど目にしてきたはずだったのに、本書を読んであまりにも知らない「事実」が率直に綴られていたからだ。予選リーグの最終戦、対ブラジル戦。1-4で大敗を喫した試合の直後、チームの司令塔、中田英寿がフィールドに横たわったまま動かなかった光景がよみがえった。そして、チームメイトのほとんどが中田の元に行かなかったことも。本書では、あのとき日本代表内部に何が起こっていたか、に迫っている。 「なぜ日本はドイツで負けたのか」。本書ではこの理由を見出すべく、世界を巡って50人以上の選手、サッカー関係者に取材を敢行した。第3章の「確執」では、一般的に言われた「海外組」「国内組」の確執や中田の孤立が赤裸々に描かれている。ある選手が「俺たちがヒデを無視していたんじゃない。俺たちが無視されていたんだ」と吐けば、「あの人は、本当に独りが好きですからね…あれだけ、すごい人だから、もっと絡みたかったんです。でも俺が積極的にいくのがウザかったみたいで」と明かす選手も。もちろん中田も仲間と距離を縮めようと食事会を設定したこともあったが(第5章「晩餐」で詳述)、次第に仲間の輪に入らなくなり、最終的に日本代表の空中分解につながった。著者は「誰が悪かったわけでもない。誰もが人間関係の加害者であり、被害者だった」と結論づけている。前半部分は特に、海外の選手の目も交えた「日本代表の内部」がよく描かれている。 本書ができるきっかけは金子達仁がW杯開催中も更新していたブログ「拳組」に寄せられた多くのメールだったという。金子らは「同じ過ちを、繰り返してはいけない。繰り返していいはずはない」との一心で取材を重ね、W杯終了からわずか半年での緊急出版にこぎつけた。3人のスポーツライターとサポーターの思いが詰まった本書は、インターネットがメディアとして大きな将来性を持っていることも示してくれた。
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