イチオシ!スポーツ Book Review一覧

延長戦に入りました




 一応分類は「スポーツ本」なのだろう。だが、著者自ら「本質以外に目が向く体質」と言っているように、少々、いやかなり普通の「スポーツ本」とは趣を異にしている。例えば、「レスリングのタイツはなぜ乳首を出すのか」「ボブスレーの前から2番目の選手は何をする人なのか?」といった、かなり「本質以外に目が向いた」着眼点なのである。同時に、それらの明確な答えを知らないほとんどの読者にとっては大きな共感を得る着眼点でもあり、読み出すと止まらない。ちなみに、この2つの問いに対する正解は書かれていない。あくまでも著者の視点で、脱力感満載の持論が続く。
 ユーモア、暴論(?)、妄想が続く一方で、ちらりと見せる正論がまた秀逸だ。「ひそかなる故障の楽しみ」の項では、激しく長時間にわたる練習の理由を日本人の勤勉性と並べて「…この勤勉性と同じくらい強い国民性が作用しているのではないかとひそかに思っている。それは『故障フェチ』とか『故障自慢』といった感情である」と分析し、柔道の「優勢勝ち」を「こんなもの柔道以外なら絶対許されない…結局、日本人は物事を数量化することが苦手なのかもしれない…しかし、日本人同士ならよくても、それでは絶対に国際化はできないのである」と一刀両断する。
 この複眼的な視点こそ、スポーツを論じるのに必要なのだと気づかせてくれる良書である。