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最後のシュート




 1990年代初頭。かつて有名な遊園地で栄えたニューヨーク市のコニー・アイランドがこの話の舞台であり、著者の取材を基に構成されたノンフィクションである。
 街では僅かな乗り物を残し遊園地の大部分が解体され、代わりに巨大な公営住宅街が立ち並んでいた。夜になると麻薬が売買され、銃声が鳴り響く危険な街中で、「ザ・ガーデン」と呼ばれるバスケットコートだけは違っていた。そんな場所にも関わらず、高価なプロ仕様のリングが使われ、人が集まり活気に溢れていた。バスケットボールはこの街の人々にとって、取り分け若者にとっては特別なものであった。
 街の衰退とともに、かつて成績優秀校であったリンカーン高校もコニー・アイランドと同じ運命を辿っていた。教育を満足に受けることが出来なかった子供達が集まり、高校を卒業しても行き先がなく、この街から抜け出せない者も多かった。だが、その中でバスケットボール部だけは違った。「ザ・ガーデン」のコートで練習を積み、ニューヨーク市屈指の強豪であった。大学のスカウト達の多くが注目し、彼らの目に留まることが出来れば、大学に入学し十分な教育とバスケットボールの奨学金が得られる。そして、この街から抜け出すことへはもちろん、NBAの道へも繋がっている。
 本書で話の中心的人物であるラッセル・トーマス、コーリー・ジョンソン、チャカ・シップ、ステッフォン・マーベリーの4人は同校の選手であり、バスケットボールの奨学金で大学にいくことが彼らの希望であった。しかし、大学に入学するためにはバスケットでの活躍は当然ながら、勉強でも試験で一定の結果を出さなければならない。そんな彼らの日々を追って話は進んでいく。
 アメリカンドリームというと言葉の響きはいいが、現実的に成功出来る者はほんの一握りの人間だけだ。本書を読んでいくと、才能溢れ周囲から期待がかけられている高校生が苦悩し、葛藤していく様子が見て取れる。多くの者がコニー・アイランドの殺伐とした光の見えない生活から抜け出したいと思っているのだ。現に選手の親は、我が子に並々ならぬ期待をかけている。希望を抱く選手達と各大学のスカウト達とのやりとりの中で、バスケットのビジネスとしての裏の世界も見えてくる。是非、本書を読んで決して甘くはない現実の世界を知って頂きたい。