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フィギュアスケートに懸ける人々-なぜ、いつから、日本は強くなったのか-




 バンクーバー冬季五輪で一番の注目を集めたフィギュアスケート。浅田真央選手と韓国のキム・ヨナ選手の対決は五輪史に残る名勝負だったし、高橋大輔選手のステップには世界が拍手を送った。男女シングルは浅田選手の銀メダルと高橋選手の銅メダルを始め、6人全員が入賞。国別でいえば、?金メダル?級の活躍ぶりだった。
 本書は、伊藤みどり選手から浅田選手まで、フィギュア強豪国に上り詰めた日本の軌跡を当事者たちに丹念に取材し、“証言”を集めている。2010年1月刊行で、「“冬のオリンピック”を10倍おもしろく観るための本」と紹介されているが、冬季五輪が終わった今でも十分楽しめる。
 本書では、女子で世界初のトリプルアクセルジャンプを跳んだ天才・伊藤みどりと名コーチ、山田満知子の師弟物語から、「スケート王国・愛知」を支える学校や企業の熱意、日本初のアイスショー「プリンスアイスワールド」の存在意義などに触れている。「もともとフィギュアスケートは、ヨーロッパの貴族が始めたスポーツ」「一部に強烈な優越感情をもつ、排他的な競技がフィギュアスケート」など競技の基礎情報のほか、中京大学・中京高校の関係者、愛知県に本社があるトヨタの多大なる支援、全国にアイスリンクを造った西武鉄道グループの元オーナー、堤義明の貢献にも触れている。今まで聞いたことや見たことのないエピソードにあふれている本書からは、フィギュアスケート取材に長く携わった著者の、この競技への深い愛情が感じられる。
 「私たちは今でこそ、世界中で暖かく迎えられますが、それは長い時間をかけてつくってきた道があるからだと思っています。そういう事実を忘れてはいけないと思いますし、いつも感謝しています」。文中に出てくるある選手の言葉だ。この一言に日本のフィギュアスケートが歩んできた“苦難の時代”が凝縮されており、かつ明るい未来へのメッセージでもある。=敬称略