人生、負け勝ち
本書は2004年アテネオリンピック、2008年北京オリンピックと女子バレーボール日本代表監督を務めた柳本晶一氏が、自身の幼少期から代表監督時代までを振り返り、またその経験に基づく「勝ちは負けの隣にいる」などの数々の教訓や哲学をまとめた内容となっている。 新日鐵時代、チームを何度もリーグ優勝に導きながらも、全日本代表では控えであった経験から、どうすれば正セッターのポジションを取れるのかと分析しメモを取り始めた結果、積もり積もった大学ノートはダンボール8箱分にもなった。さらに国内外含め計3チームの男子監督を経験し、東洋紡女子バレーボール部監督に就任した時に初めて男子との指導法の違いにより苦心し、紆余曲折を経て一心不乱に強豪チームを作り上げていく様子は筆者がどれだけバレーボールに命をかけてきたかを感じることができる。その経験が本書の特徴の一つである男の視点、特に管理職のようなリーダーの立場にいる者がどのようにして女性をまとめていくのか、対応していくのかを記すことに繋がっている。性別によりそこまで変えなければいけないのか、と読んでいて思わず驚かされる。 例えば監督は選手を管理するというよりは自主性を向上させる方法を採っている。単純に放任するのではなく、どのように個々のモチベーションを高めていくかなど、選手一人一人の気持ちを理解、予想してチーム全体の手綱を握っていかなければならず、組織力と同時に人心掌握力が求められる。また選手の起用一つとっても、ただ単純に勝ちたいからではなく長期的なビジョンを持っている。指導者は立場上どうしても試合の勝敗を一番に意識せざるを得ない。特に自身の進退が懸かっているようなプロの監督ならば尚更である。そんな立場にいながらも目先の試合だけに囚われず、選手の育成も同時に行っていく筆者の指導法は、今後、多くの指導者にとっての一つの道標になるのではないだろうか。そういった意味でも本書はバレーボールに興味があるないに係わらず、指導者や管理職の立場にいる者、または目指す者にとって是非とも読んで頂きたい一冊だ。
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