イチオシ!スポーツ Book Review一覧

ボックス!




 スポーツ小説に必要な要素と聞いて思いつくのは「努力」「挫折と成功」「友情」「汗」「涙」といったところだろうか。その舞台が高校であれば尚、申し分ない。本書は、これらの要素を全て満たした青春真っ最中のスポ根小説だ。
 物語は大阪の高校の体育科に通うヤンチャなボクシング部のエース、鏑矢義平と彼の幼なじみで彼の強さに憧れてボクシングを始める優等生、木樽優紀を軸に展開する。絶対的に自分の才能に自信を持つ「天才型」鏑矢の挫折や、鏑矢みたいになりたい一心で愚直に練習に取り組む「努力家」優紀の成長はもちろん、不本意ながらボクシング部の顧問になったが次第に競技の魅力に取り憑かれる女性教諭、高津耀子や弱小だったボクシング部の仲間たちの気持ちの変化も見逃せない。そして終盤に向けて鏑矢と優紀の前に大きく立ちはだかるライバルとの闘いの行方が最大の盛り上がりを見せる。 
 また、主人公たちの所属する高校ボクシング部顧問、沢木がボクシング部員や耀子にボクシングの歴史や背景を説明する場面を通して、読者にもボクシングの新たな魅力を伝えているのが興味深い。「ボクシングは世界で一番古いスポーツ」「古代ギリシャのオリンピックでは、ボクシングの勝者があらゆる競技の中で一番の栄誉を称えられた」など初めて知る内容が満載だ。中でも印象的なのは、「英和辞書で『science(科学)』を引くと『ボクシングの攻防の技術』と書かれていた」というくだり。ボクシングを見る目を変えた一文だ。
 5月22日には、本書の映画が全国公開される。映画だけでも十分面白いが、小説の世界観を知った上で映画を観れば楽しみ方は2倍にも3倍にもなるだろう。