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ホッケー69 チェコと政治とスポーツと




 本書は、チェコの民主化とアイスホッケーに着目し、5年間の取材を続け完成したノンフィクション作品である。北海道出身の筆者は、札幌でチェコのアイスホッケー選手に出会ったことをきっかけに、1969年のチェコスロバキアで起きた「ホッケー事件」を追いかける。チェコにおいてアイスホッケーは国技であり、国民に根付く「ホッケー」は、日本にはないスポーツの神髄を感じさせる。
 チェコは、北海道くらいの国土の広さの中に、60以上のプロチームが存在している。トップリーグのエクストラリーグには、14のホッケー・チームがあり、日本のリーグに比べると2.5倍以上の試合数を1シーズンで消化する(2000年当時)。
 一方、歴史的には、チェコスロバキアは、1968年に起こした変革運動「プラハの春」から、1989年の「ビロード革命」による民主化に至るまで、ソ連とワルシャワ条約機構軍による武力介入を受けていた。筆者は、この「正常化政策」(武力介入)が強硬に推し進められたのは、69年のホッケーの世界選手権以降のことだと言う。
 69年にスウェーデンのストックホルムで開催された世界選手権、そしてホッケー事件で起こった出来事は何か・・・。当時のチェコスロバキア代表のホッケー選手や関係者が複数登場して語る当時の様子はリアルで、未だ過去の出来事として完結しているわけではない。本書は、歴史、政治、スポーツ、リーグ…と多視点で楽しむことができる一冊だ。