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独破力




 2010年南アフリカ。松井大輔は、W杯の大舞台でサムライブルーのユニフォームに袖を通す。日本屈指のテクニシャンと呼ばれ、積極的にドリブル突破を試みチャンスメイクをする松井は、パサーが多いといわれる現在の日本代表の中盤において、攻撃にアクセントを加える貴重な存在である。
 京都パープルサンガ時代の天皇杯優勝や、フランスに移籍してから「ル・マンの太陽」と呼ばれた時代など、サッカー選手として華々しい活躍の目立つ松井だが、2006ドイツW杯日本代表の落選、腰のケガ、出場機会に恵まれないASサンテティエンヌでの生活など、多くの壁にぶつかっている。その壁を毎回打ち破り、道を開いていくことで、現在の松井というプレーヤーがある。
 松井はケガや好不調の波が大きいと指摘される。筆者としても、ケガによりプレーができず、復帰してからも思うようなパフォーマンスが発揮できない苦しい時間を味わった経験があり、松井がいかに腰のケガを乗り切ったかにはとても興味があった。
 「自分がいちばんうまい」松井はプロとして戦う前提として、この信念を持っている。しかし、この言葉は「こう思っていなければ、プロサッカー選手などできやしない」という気持ちの裏返しなのである。戦う姿勢は、どんな競技においても最も大切なものだ。
 気持ちで負けていたら実際の勝負で勝つことは不可能。積極的なドリブル突破、見ている人の目を釘づけにする見せるプレーは、強いメンタルで挑む姿勢から生まれ、松井を支えている。
 誰もがなりたくてなれるわけではない職業。ある意味で選ばれし人間のプロ選手。結果を出さなければ明日の保証がない世界。松井はカズ(三浦知良)から、プロとは何かを教わった。プレーに込められた必死さ、ボール、勝利に対する執着。自分が楽しければ良いと思っていたサッカーを「人に喜んでもらいたいから」と考えるようになった。松井は南アフリカW杯の地でファンに恩返しをする義務がある。