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ノーサイドの心~日本の未来をラグビーが救う~




 歴代内閣総理大臣の中でも、とりわけスポーツへの理解や愛情を示してやまないのが、現役ラガー政治家、森喜朗であろう。当選14回のベテラン議員として多忙を極めるかたわら、日本体育協会、日本ラグビーフットボール協会会長、日本オリンピック委員会理事、日本トップリーグ連携機構会長などスポーツ関連団体の要職を現在も務めている(平成22年7月現在)。また、2019年ラグビーワールドカップ招致にも重要な役割を担った。
 ではなぜ森は、そこまでスポーツを愛し、普及や発展にこだわり続けるのか。それは森自らが体験して得た、ラグビーは人を育て、人と人を結びつける。その素晴らしさは世界平和にも貢献する、という信念があったからに違いない。その、森の信念がどのように形成されていったかが、本書に記されている。
 森は、ラグビーは体を鍛える「体育」としてだけでなく、道徳心、モラルを高める「徳育」においても有効だという。団体競技であるからチームワークや犠牲的な精神を学べ、やさしい心が育まれる。困難に立ち向かっていく敢闘精神から、主体的に人生を切り開く勇気が育まれる。闘いが終わればノーサイド(敵味方なし)という精神から、敗者を尊重し相手に敬意を払う習慣が身に付く。そして最後まで自分に与えられたポジションを守る意識から責任感が育まれるというのだ。また、仲間と共に厳しい練習に耐え、苦しさを乗り越えて勝利を目指す過程で、かけがえのない生涯の友を得ることができる。だからこの素晴らしいスポーツを、世界中に広める必要があるのだ、と。
 本書で森が繰り返し述べるラグビーの価値は、これまで多くのラガーマン達が語ってきたものである。したがって、そこに新たな知見やオリジナリティを見出すことはなかった。しかし、スポーツには伝えるべき素晴らしさがあるという信念に基づき、スポーツの普及や発展に尽力してきた森の言葉だからこそ、そこには重みや説得力がある。理想を述べるだけでなく、理想の実現に向けて行動を重ねてきた事実が持つ迫力がある。自分の子どもにも、ラグビーをさせてみたいと思わせる一冊であった。(敬省略)