スポーツは誰のためのものか
2011年3月11日の東日本大震災後、被災地への支援の輪はスポーツ界でいち早く広がり、多くのアスリートやスポーツ団体が「自分たちができること」を模索しながら活動に取り組み始めたのは周知の通りである。 こうした取り組みを見聞きして、スポーツ関係者に限らず多くの人たちが「スポーツができることは何か」「なぜスポーツなのか」と考えを巡らしたことであろう。このようにスポーツと真正面から向き合うときに先導役となってくれるのが『スポーツは誰のためのものか』である。 著者の杉山茂氏はNHK報道センター長、Jリーグ理事、慶應義塾大学院客員教授などを歴任し、隅々までスポーツ界を見てきた人物である。だからといって、本書は業界裏話本などではない。大学院での講義ノートが原型となっているが学術書でもない。 明治の時代に欧米から輸入された文化であるスポーツは、その訳語として「遊戯」という言葉が充てられたという。しかし、この訳語の意図に反し、この国においてスポーツは鍛錬、競技、勝負、教育(体育)の色彩を強めていく。どうも日本人は「楽しむ」「遊ぶ」というスポーツの本質を理解することなく現代に至ってしまったようである。 著者はスポーツ愛好家に向けてこう問いかける。「『スポーツ』というだけであらゆる社会や人が受け止めてくれる、そしてそれを『スポーツ』への支持と思い過ごして歩んできたのではないか」と。 本書では、著者の綿密な調査と鍛え抜かれた観察眼により、教育現場や企業、地域社会、マスコミとスポーツとの関わりが検証され、この国でスポーツがどのように発展し、どのような課題が積み残されているのかが解説されている。 さて、それでは一体、スポーツは誰のためのものであろうか。本書は次の一文で締め括られている。「スポーツは間違いなく『あなた』のものである―。」この一文の深み、あなたはどのくらいわかりますか。
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