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チーム


 正月の風物詩である箱根駅伝では、単独チーム以外に学連選抜という枠がある。他の大学のように統一されたユニフォームを着ていない。チームでの出場権は逃したものの、予選会で好成績を残したことで挑戦権を得た、敗者の中から選ばれた寄せ集め集団だ。
 学連選抜には重荷がない。4年間同じ釜の飯を食べ、苦労を共にした自分たちの事情だけでなく、大学やOBの期待なども背負って走らなければならない単独チームに対し、駅伝で唯一「自分のため」だけに走ることが許される特別な存在だ。一方、葛藤も生じる。選抜メンバーとしての個人出場は、仲間への裏切りになりかねない。4年間、チームのために走ってきた者は、チームのために走ることしか知らない。自分のためだけに走るとは、どんな走りなのか。
 出場を決心し、キャプテンに抜擢された浦大地は個の集まりである学連選抜を1つのチームとしてまとめ上げようとする。優勝という具体的な目標を掲げ、走り始めるが、絶対的エース山城悟は「自分の走り」を徹底的に求め、チームの輪に入ろうとしない。芽生えた団結力をあっという間に吹き飛ばしかねない爆弾を抱えたまま、学連選抜は箱根に挑む。
 駅伝は「究極の個人競技」か、それとも「究極のチームスポーツ」か。箱根の道を走るためだけに集められた敗者達は、217.9kmを走り切ると、二度と同じチームで戦わない。もちろん、先輩から受け継ぐ伝統など無い。誰のため、何のために「敗れし者」は走るのか。それぞれの想いを探ることは、箱根駅伝のもう1つの楽しみ方になる。