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宿命 白球をめぐる因果



 東日本大震災は東北だけでなく、日本全体を揺るがした。プロ野球開幕日についても多くの意見が飛びかい、国民的議論の末に決定。2011年はいつもと違う、特別なシーズンになると誰もが予想した。節電ナイターや球場変更などプレー以外の部分が取り上げられる中、かつて甲子園決勝のマウンドを2日間に渡って投げあった2人、斎藤佑樹と田中将大は、特に注目を集めていた。
 優しい顔立ち、白を基調とした早稲田実業のユニフォーム。灼熱のマウンドで、ハンカチを取り出し丁寧に顔を拭う。一つ一つのしぐさが好青年のイメージと結びつき、世の中は斎藤に見入った。優勝候補と目された駒大苫小牧を決勝で引き分け再試合の末に倒す勝負強さに加え、いつのまにか関心の高まりの真ん中に位置するめぐり合わせも、何か「持ってる」と思わせる斎藤の魅力だ。しかし、それ以上に、駒大苫小牧のエース田中の存在が大きい。190センチ近い威圧感のある体つきで150キロを超える速球を投げ込み、マウンド上で雄叫びを上げる。対照的であったからこそ周囲はライバルとして取り上げ、互いの魅力が引き立ち、注目度が高まった。プロと大学。それぞれが異なる4年間を歩んだ2人は、再びプロの舞台でめぐり逢う。
 プロ野球界は、不思議な縁が満ち溢れている。強烈なライバル関係。深く掘り下げることで感じられる宿命。人と人を結びつける強力な力。本人達が意識し合う関係もあれば、メディアによってつくり上げられるライバル関係もある。
 新たに黄金世代と呼ばれるようになった1988年生まれの2人を含め、18人9組の白球をめぐる因果に迫るライバル列伝。どこかで重なり合い、互いを刺激し、見ている者を魅了するアスリート達に秘められた人間模様を描いている。