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なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか ー勝利をつかむデータ分析術




 皆さんは、アナリストという存在をご存じだろうか。アナリストとは、試合中にベンチ外から具体的な数字や動画などのデータを監督に伝える仕事である。事前に戦った経験と試合中に起きた、刻々と変わっていく全プレーの記録とアナリストも戦っている。選手が相手と戦っているのと同様に。そして、いかにチームが勝利に結びつけるかが大事になる。
 元々、バレー界には、“データバレー“というソフトウェアが存在し、バレーボールにデータ革命をもたらしたソフトウェアである。”データバレー“とは試合中の情報や、試合の録画、その中のそのワンプレーが見たいという映像を自動で検出してくれるアナリストには欠かせないソフトである。
 著者である渡辺啓太氏は大学時代から柳本ジャパンのアナリストならびに、実業団のアナリストを歴任。卒業と同時に全日本初の専属アナリストとして柳本ジャパン、そして真鍋ジャパンに貢献した人物である。
 今まで、日本のバレーボールにおいて私たち見る側の視点は一つ一つのプレーに一喜一憂していたが、その背景にここまでの緻密なデータのやり取りが存在するとは思ってもみなかった。今では、監督がiPad片手に送られてきた情報を駆使しながら指導する姿がとても印象的である。
 本書では、渡辺氏の経歴や過去にやってきたアナリストの経験、ならびに実際のデータバレーの画像や、中継では説明されない用語などが書いてあり、今まで見てきたバレーボールよりも深い視点が見えてくる。表紙にもある通り観戦力が高まる一冊と言えるであろう。
 最後に、渡辺氏が全日本の専属アナリストになるきっかけを与えた柳本晶一監督の一言を本文から抜粋させて紹介させていただく。
 「男はロマンを追わなあかん」
 当時、大学卒業後、母親に心配をかけないようにと安定した就職を考えていた時に監督に誘われた一言である。柳本氏の男気あふれる言葉にその道を目指そうと決意しなければ、今の全日本女子の輝きはなかったかもしれない。