イチオシ!スポーツ Book Review一覧

ファーガソンの薫陶 勝利をもぎ取るための名将の心がまえ



 「あなたは負けず嫌いですか?」

果たして負けず嫌いが良いことなのか悪いことなのかはわからないが、少なくともこの本を読む限りではアレックス・ファーガソンという男がとても負けず嫌いな男だと感じられる。それは、この本の中でいかに目先の勝利にこだわっているか、それだけでなくリーグ戦などの長期的な勝利においても細部のさらに細かい部分にまで徹底的に突き詰める様子が書かれているからである。ファーガソンは本文中の言葉を借りれば、”生粋の勝負師ではなく勝利師”なのである。
 彼は昨年6月に香川真司選手が移籍したマンチェスターUの監督として君臨しているが、その年月はなんと26年。70歳になってもいまだに現役で指揮を執り続けている。プロスポーツにおいて、これほどの長い期間同じチームを率いていることはとても異質ではないだろうか。日本で言えば、野球界で王貞治前監督がホークスを14年間率いていたが、それでもこの数字には遠く及ばない。
 本書では、ファーガソンという男の勝つための選手の操縦術や、試合以外などで繰り広げられる口撃を活かしたマインドゲームなど、勝つためのあらゆるファーガソンの業が一つ一つの章ごとに分かれて書かれているため非常に読みやすい。ときおり当時のエピソードなどの裏話も挟まれていることが、この本をいっそう読みやすいものにしているであろう。その一方で、就任当初からいかにして信頼を手に入れ、自在に手腕を発揮できる環境づくりができたのかというのも、ファーガソンのマネジメント能力の高さ、ならびに処世術の上手さが際立ったものであり、ファーガソンの人間性がとても良いことがこの本から覗えることができるであろう。
 マンUファンのみならず長期政権を率いるためのリーダー論としても素晴らしい本であるため、香川選手を通じてファーガソン監督の存在を知った方は、世界最高峰にいるこの男の戦う術を、この本から感じ取ってほしい。