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メキシコの青い空―実況席のサッカー20年


 Jリーグが開幕して20年にもなるという。何しろ自分は20歳。生まれた頃の日本のサッカーの水準など知るよしもない。今では世界の舞台に戦う選手が増えてきた。急発展だったのかどうか。それを見て取れるのがこの一冊だ。
 スポーツ中継にはかかせない実況。NHKで25年間、サッカー実況を担当してきた筆者は1994年W杯最終予選「ドーハの悲劇」や99年天皇杯「フリューゲルス消滅」をなど、多くの試合を実況してきた。
 本書は試合の時系列に沿って書かれているため、いつの間にかリアルタイムで試合を見ている感覚に陥る。1986年のメキシコW杯で歴史に刻まれた、アルゼンチンのレジェンド、マラドーナの「神の手」、「5人抜き」の場面は、本を持つ手に汗を握る。サッカー日本代表がW杯初出場を決めた1998年フランスW杯アジア最終予選でのジョホールバルの歓喜では、目頭が熱くなる。
 痛感するのは、著者の独特の感性から映る景色が卓越した表現力によって表されていることだ。それがあるからこそ、今でも語り継がれる名実況があるのだと納得させられる。自分には見ることのできない世界が、文字によって簡潔にわかりやすく記されている。
 今日の日本のサッカーはメジャースポーツとして幅広い世代に愛されるまでに成長してきた。しかし、ここまで発展するまでに紆余曲折あったことを忘れてはならない。サッカーを知るための入門書にしてもよし、サッカーを語るのであればこれを読んでからでも遅くないだろう。

 駆け抜けてきた日本サッカー激動の時代を一度立ち止まり、この本と共に振り返ってみてほしい。