”「ゲーム」―なんと面白い言葉だろう。” この言葉は著者である山際淳司氏が本書の最初の章の中で書いた言葉である。勝負の世界において必ずや生まれるに違いない勝者と敗者。そして、その勝敗に審判を下す存在。また、勝負をよりドラマチックなものに仕立て上げた環境や人間模様など、あらゆる要素が一瞬のうちに重なり合い「ゲーム」は完成する。そこには一言では言い表すことのできない悲劇的な結果もあれば、歓喜に沸く瞬間もある。きっと現場に関与する人たちはこの現実を様々な面持ちで見つめていることだろう。
本書には8つのストーリーが描かれており、決して有名な選手や出来事だけを追ったわけではない。ただ、それぞれの舞台で起こるドラマには少なからず一つの「ゲーム」が存在する。そこにスポットライトが当たり、主役の選手が光り輝いて我々の関心を強くさせる。さらなる演出は、思わずシビれてしまうような言い回しや、当事者の背景にある伏線が著者の取材から浮かび上がり、より具体的に話を把握できるような文章構成で成り立っているため、読んでいる我々もその舞台の観客のごとくストーリーを楽しむことができる。
わたしがこの本を読み終えたとき、冒頭に書いた言葉がスッと頭の中によみがえってきた。と同時に、本来なら関係者にしかわからない現場での言葉の意味や感情の揺れ動きもしっかりと伝わってきた。競技スポーツにおいて決して避けることのできない現実がここには描かれている。そのことを実感したとき、この本を読んだ方々はきっと冒頭の言葉が浮かび上がると思う。
本書のオリジナルが発行されたのは81年とだいぶ古い。だが、今も昔も選手が一つの競技や試合に邁進していく姿は決して変わらない。”この選手なんて知らない”なんて言う前に一度読んでみてほしい。きっとこの舞台のとりこになるに違いない。
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