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東京五輪1964


 2020年五輪の開催地が、2013年9月、東京に正式に決定した。開催が近づくにつれて否応でも期待が高まっていく、というのは日本国民として大変喜ばしいことだと思う。そんな機会に、約50年前に行われた日本で初の世界的なスポーツイベントの様子を知ることが出来るのが本書である。
 1964年10月10日に行われた開会式(この日をきっかけに体育の日が生まれたのは有名)から、閉会式までの15日間、有名な選手やそうでない選手、もしくはアスリート以外の何らかの形で東京五輪に関わった方々の話を中心に構成されている。その背景には、数々の苦難や挫折などのドラマが見える。それは、この15日間のことだけではない。4年前のリベンジを誓うもの、次の五輪に向けての糧とするもの、この経験を後世に継承するもの、など様々である。
 文章を読み進めていくうちに登場人物の心情がはっきりと伝わるので、思わず7年後の東京の雰囲気を想像してしまうのも、本書の面白いところであろう。テレビではなく会場でスポーツを観戦したい、もしかしたら有名な選手に会えるかもしれない。そんな様々な思いを抱きながら本書を読み進めてほしい。
 そして、競技や運営等に携わる方々にもぜひとも本書を読んでいただきたい。それは、本書の締めの言葉として著者が添えた言葉に表れている。
 
「1964年のオリンピック。あれはほんとにオリンピックらしいオリンピックだった。」

 商業主義、金メダル主義が色濃くなっている現代の五輪において、もう一度、日本国内が、そして、世界の国々がみな純粋に幸せになれるような東京五輪を作り上げてほしいという著者の願いが込められた言葉である。私もこの言葉を胸に、素晴らしい東京五輪になることを思い浮かべながら、その時を待ちたい。