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神去なあなあ日常


 「林業は第何次産業にカテゴライズされるでしょうか」
答えは第一次産業である。農業や漁業と同じで第一次産業は自然の恩恵を利用した産業であり、また人が生きていく上で欠かせない産業である。にも関わらず、林業の世間での認知度は低く、恥ずかしながら私も知っているとは言い難い。

 本書は高校卒業と同時に突然、田舎の林業の世界に放り込まれた都会っ子の苦悩と成長とともに林業の奥深さや実態を知ることが出来る一冊である。現代の生活の中で忘れかけている、季節ごとに村で催される祭りや、様々なしきたりのシーンは、なんだか新鮮で不思議な気持ちに陥る。

 主人公平野勇気は山での暮らしの中で人間として大きく見えるようになっていく。いや、実際大きくなっていく。例えば精神面。小説の舞台、神去村に来た当初は林業を行うことについてもネガティブ。しかし、「なあなあ」(方言で「まあ落ち着け」のようなニュアンス)な毎日を過ごすことでいい意味で単純でポジティブになってゆくのが読み取れる。

 泥んこになって遊ぶことも少なくなった現代。木に登って半日を過ごすこともほとんどない現代。自然と共に育つことのない現代の人たちには何かくすぐったい気持ちになるかもしれない。親世代の人たちは子供の育て方に、例えばプールではなく川で遊ばせよう、といったアクセントを一つつけるだろう。

 経済が発展していくと、産業は第一次産業から第二次産業、第三次産業と主幹産業は変わっていく。日本も時代が進むとともにそのような道筋を辿ってきた。しかし日本には、農業を行う上で欠かせない四季、膨大な種類の産物がとれる海と山、そして、古くから受け継がれてきた間伐技術、といった素晴らしい環境と伝統がある。

 忘れかけている感覚と忘れるべきでない慣習とを思い出させてくれる一冊だ。これこそが私たちが未来に受け継ぐべきものなのかもしれない。自分の時間を作り、気持ちを清めて山へ行ってみようか。