スポーツと視機能
2013年8月に当機構が開催した「トップリーグ審判研修会」にて「審判に必要な動体視力の講義・測定」をしたところ、参加者の皆さんから「眼の重要性があらためて理解できた」と大きな反響がありました。 そこで、団体ボールゲームの選手にも必要な動体視力や、スポーツと視力との関係に関するコラムを連載することに致しました。本コラムを通して、大切な体の一部である「眼」に対する理解を深めていただき、競技における強みにしていただければ幸いです。
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人間が生活していく上で必要な情報の80〜90%を眼から取り入れていると言われているが、スポーツに於いての視覚情報の重要性は日常生活以上である。
想像してみてください・・・普段やり慣れたスポーツでも、片眼を遮蔽して行うと両眼と比べどれ位のパフォーマンスを出すことが可能だろうか?
現在の両眼の視力を半分ぐらいにして行ったら、どれ位できるだろうか?
スポーツの種類によって視覚能力の関わり方は大きく違う。
例えばレスリング、柔道、剣道(座頭市は何故あれほど強いか・・・?)などは視覚能力と技術力に相関は少ないと思われるが、球技種目の野球、テニス、ホッケー、サッカーなどは以前に関わった経験のある方なら容易に想像がつくように視力や視野が正常でないと技術力は大きく損なわれる。
この為、スポーツをする人は勿論のことだが、スポーツを指導する人やその関係者はスポーツに関わる視機能・・いわゆるスポーツビジョンに関心を持っていただきたいと思う。
このスポーツビジョンという概念は1980年ごろからアメリカで出始めて現在に至るが、まだまだ十分には解明されておらず、未知の部分、曖昧な部分も多く、これからの分野かと思われるが、興味深い神秘的な面も併せ持っている。
よく野球のスポーツ解説で引き合いに出されるが、打撃の神様と言われた故川上哲治さんが選手時代の好調な時には、投手の投げたボールが止まったように見えるとか、優秀なサッカー選手が背後の味方や敵の選手が、背中に目があるがごとく視野が広いとか、同様に優秀なバレーボールのセッターは瞬時に味方とボールの関係と相手の守備体型の弱いところを判断し攻撃を組み立ててトスを上げられるなど、アマチュアでのスポーツ経験しかない私には理解を超えた感覚である。しかし、ある種のスポーツの技術力や能力が、スポーツビジョンの向上によってどれくらい寄与することができるのかを確認することは、趣味程度にだけスポーツに関わった眼科医にとっても大変興味深い。
スポーツビジョンは スポーツにおける技術面、肉体面のいわゆるフィジカルとメンタルに並ぶ3つ目の要素として考えられてきている。
スポーツにとってのフィジカル面はすべてのスタートであり基本であるが、メンタル面はフィジカルの練習のみで解決していくわけではなく、メンタル面に特化したトレーニングも高いレベルになればなるほど必要になってくるし、限られてはいるだろうが専門家もいる。
しかし、第3の要素と考えられているこのスポーツビジョンの確固たるトレーニング方法があまりないのが現状である。
その理由の第1はスポーツビジョンの定義、測定方法が確定されていないことがあるが、この問題の解決には相当な時間と労力が必要と思われる。
この問題とスポーツビジョン測定については別の項でゆっくりと考えたい。
第2はスポーツビジョンに関わる専門家は、眼の病気についての知識が十分にあり、更にはスポーツ時の眼外傷にも対応できる(スポーツ眼外傷についても別の機会に解説したい)眼科医や視能訓練士が望ましいが、この両者は常日頃室内の暗室に籠り仕事をしており、整形外科医などと比べるとスポーツの経験や関心が少なく、先程述べたように視機能の影響が大きい競技への関わり方は競技毎によって全く異なるため、その競技の実際の経験がないとなかなか関われないことがあると思われる。
第3にはスポーツをする人を含めたスポーツ関係者においてもこのスポーツビジョンが十分認知されていないことなどがあげられる。スポーツビジョンとは、スポーツに重要な視覚機能のことであり。非常に視覚と関係が深い。
スポーツする上で眼について関心を持って頂きたいと思う。
(第2回 スポーツ選手と視力矯正へ続く)
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足立和孝(あだちかずたか)先生 1958年生まれ 院長 医学博士 日本眼科学会認定専門医 |