スポーツビジョン〜アスリートは眼が命〜一覧

2014-2-13

スポーツ選手と視力矯正

♢スポーツと視力

 

 スポーツにおいて視機能は重要な役割を果たしている。その中でも基本となる能力が視力である。ここでの視力は、眼科で行うような静止視力のことである。第1回でお話した様に、視力が悪ければ対象物をはっきりと見ることが出来ず、ミスに繋がる確率が高くなる。それだけでなく、特に球技ではボールに対する反応が遅れたり、遠近感がなくなり競技能力の低下にも繋がる。これらは適切な視力矯正をすることだけでも改善される。

 ではスポーツする上でどのくらいの視力があればいいのだろうか?

 競技種目によって必要な視力は、様々である。最低でも両眼視力は0.7以上が必要と言われているが、視力は1.2〜1.5望ましい。また、左右の視力の差もない方が良い。両眼視力で1.2以上あっても片眼の視力が悪ければ、悪い方の眼に適切な視力矯正が必要である。



「各スポーツごとの矯正視力を変化させた時の技術力の変化」

表 両眼視力1.2〜1.5の時の技術力を100%にした時の矯正視力と技術力の変化(%)
(参考:スポーツビジョン,真下一策,2002年)

矯正視力 0.1 0.3 0.5 0.7 1.2〜1.5
アーチェリー 99.1 97.6 97.2 99.1 100
バスケットボール 79.2 84.9 99.8 105.1 100
テニス 70.5 86.2 88.3 90.7 100
卓球 46 80.7 80.7 90.1 100
野球 3.6 28.1 36.9 74.9 100
サッカー 45.8 66.4 85.8 76.9 100
平均 57.4 74 81.5 89.5 100


 表の結果通り、競技種目によって異なるが、矯正視力が良いほど技術力は高いことがわかる。特に球技種目においては適切な矯正が必要なことがわかる。


♢屈折矯正方法
屈折矯正の方法には①コンタクトレンズ②オルソケラトロジー③レーシック④メガネなどがありこれらについて簡単に説明する。

①コンタクトレンズ
 現在、スポーツにおいて主流となっているのがコンタクトレンズである。


 

1)ハードコンタクトレンズ(HCL)
 HCLは黒目よりも小さく、視力矯正に優れており、見え方がシャープ。眼のキズにも気付きやすいため、重い眼障害になりにくい。しかしHCLは硬いため慣れるのに時間がかかる。激しいスポーツではレンズがズレやすく不向きである。



 

2)ソフトコンタクトレンズ(SCL)
 SCLは黒目よりも大きく、レンズが柔らかいため装用感がよく、ズレにくくスポーツには適している。その反面装用感がいいために眼のキズに気付きにくく重い眼障害になることもある。
 SCLには、1枚のレンズを使い続けるタイプ、2週間使い捨てタイプ、1日使い捨てタイプがあるが、使いたいときのみ使用できる1日使い捨てタイプが多い。



 

②オルソケラトロジー
 角膜の形状を特殊なHCLを使って矯正し、視力を回復させる角膜矯正療法のこと。
 夜寝る時にレンズを装着し、朝起きて外すだけで角膜の形状が変化し視力が回復する。回復した視力は一定時間維持され、日中は裸眼でも良くみえるようになる。しかし、定期的な装用やある程度の睡眠時間(装用時間)が必要である。経験の多い眼科で処方を!



 

③レーシック
 レーシックはマイクロケラトーム特殊な機械を使用し、まず角膜の表面剥がすことで蓋の役割をするフラップを作り、その下の角膜実質にエキシマレーザーを照射して角膜のカーブを変えることで近視や乱視などを矯正し、最後に最初に作ったフラップをもとに戻すという手術。
 すぐに効果が現われ、矯正効果は良い。合併症としては、ドライアイや感染症などがある。

④メガネ
 直接眼に触れることなく安全で、付け外しも容易である。眼の動きに伴って動かないため視野に制限があり、スポーツには不向きである。



 上記のように様々な屈折矯正方法があるが、日常生活とスポーツで必要としている視力は、異なるためそれぞれの使い分けが必要である。適切な屈折矯正を行うことで、視機能レベルは高まる。動体視力や瞬間視などのスポーツビジョンも向上し最高のパフォーマンスへと繋がるだろう。それによって、視力不足によるミスも無くなる。
 練習に忙しく眼のことは後回しになり、この視力不良からうまくスポーツができていない子供たちやスポーツ選手をよく見かける。スポーツは眼ありき、眼のことについてもっと関心を持ってもらいたい。

 次回(スポーツビジョンの評価項目とトレーニング、その効果について)に続く。




 
足立和孝先生
足立和孝(あだちかずたか)先生
プロフィール

1958年生まれ 院長 医学博士
順天堂大学医学部眼科非常勤講師
「名医たらずとも良医たれ」という順天堂大学の精神を信条とし、これまで順天堂大学病院での臨床・教育・研究を行う一方で、聖路加国際大学病院、山梨県立中央病院、焼津市立病院の眼科部長として、数多くの患者様と接し、多くの手術を経験。
 現在、心の通う眼のホームドクターとして最高水準の医療を提供することをモットーに地域の医療・福祉の向上に貢献するほか、スポーツ選手の視機能管理にも力を注いでおります。

日本眼科学会認定専門医
日本緑内障学会員
日本弱視斜視学会員
日本眼科手術学会員
日本白内障学会員