陸上・室伏広治
2013年12月12日
五輪翌年としては12年ぶり、合計で8度目の出場となった2013年世界選手権(モスクワ)。男子ハンマー投げ予選を76メートル27の予選全体8番目の記録で決勝に進出した室伏広治は、大舞台でファウル覚悟の賭けに打って出た。その狙いを「無心で投げてタイミングが合えば、うまくはまれば、80メートルを超えたかもしれない」―。こう振り返った。実際、1投目で今季ベストの78メートル03をマーク。だが、ここまで。雄叫びがあがるような投擲は最後まで見られずに6位。表彰台ラインには届かなかった。
前年のロンドン五輪で銅メダルを獲得した。これで五輪や世界選手権など世界の第一線で活躍していくことには一区切りをつけるのではないか、とも思われた。だが、6、7月に米国で練習を積んだ本人は仕上がりに手応えを感じ、モスクワ入り後に最終的に出場することを決断したという。38歳で臨む世界選手権について「どういう結果が出るか分からないが、全力でいくしかない。年齢の限界に挑戦したい」と意欲を見せてもいた。これまで五輪翌年の2005年と2009年は「体を休めるため」もあって欠場を選択してきた。それだけに、今回の決断の背景には練習での手応えを持った上で、「年齢への挑戦」への思いが強かったのだろう。
1974年10月8日、静岡県生まれ。成田高(千葉)―中京大、中京大大学院と進み、教壇にも立ち、後進の指導にもあたる。父は「アジアの鉄人」とも呼ばれたハンマー投げ選手の重信。1998年には父が持っていた日本記録を更新し、2003年6月のプラハ国際陸上では84メートル86を投げて日本記録をマークした。2004年アテネ五輪では1位となった選手がドーピングで失格し、繰り上げで金メダルを獲得。2008年北京五輪は5位入賞にとどまったが、2011年の世界選手権(韓国・大邱)を制し、日本陸上史上初の五輪、世界選手権の2冠を達成し、モスクワ世界選手権には2連覇がかかっていた。
モスクワ大会を前、日本選手権で19連覇を達成した際の記録は76メートル42。これは世界選手権出場予定の29選手中23番目だった。記録から見れば、メダルは遠い。年齢から来る衰えもあり、疲労の度合いも若い頃とは違う。父・重信が「記録を出すなら3投目だった」と語ったように、80メートル超えを連発していたころとは、やはり違った。それでも、77メートル前後の投擲を6投目までそろえたのは、さすがだった。世界選手権を終えた室伏は「よく体を休めながらやっていきたい。できるだけ長くがんばりたい」と語った。「鉄人」らしく、年齢、そして肉体の限界に挑む姿勢は変わらない。=敬称略(昌)