次世代に伝えるスポーツ物語一覧

2013-10-29

大リーガー・上原浩治

2013年10月29日

 歓喜の輪の中心に上原浩治はいた。2013年10月19日に行われた米大リーグのプレーオフ、アメリカンリーグ優勝決定シリーズ第6戦。5-2でレッドソックスがタイガースをリードして迎えた九回にマウンドに上がった。最初の打者をフォークボールで空振り三振に仕留めると、ヒートアップした声援を一身に浴びた。2死から安打を許したものの、イグレシアスから再びフォークボールで三振を奪い、跳び上がって捕手と抱き合い、喜びを爆発させた。リーグ優勝決定シリーズで1勝3セーブ。この好成績で同シリーズ日本人初のMVP。「こんなにできるとは思っていなかったし、ここで賞をもらえるとは予測していなかった」。満面の笑みが広がった。
 1975年4月3日生まれ、大阪府出身。東海大仰星高時代は意外にも控え投手だった。大学受験にも失敗し、1年浪人して大阪体育大に入ってから頭角を表していった。「(浪人時代は)硬球も触らなかった。あの1年があったから今の自分がある」。いわゆる野球エリートではなく、自らを雑草に喩えた「雑草魂」という言葉は、後に流行語にもなるが、不屈の闘志で自らを磨いていく姿勢はこのころから変わらない。
 大学3年時の1997年、日米大学野球では14奪三振。翌1998年のドラフトで大リーグ挑戦と悩みながらも、巨人に入団。1999年は新人ながら15連勝を記録し、新人投手の記録としては1966年に堀内恒夫が記録した13連勝を33年ぶりに塗り替えた。さらにシーズン成績としては20勝4敗の好成績を挙げて、両リーグを通じて1990年の斎藤雅樹以来9年ぶり、新人投手としては1980年の木田勇以来19年ぶりの20勝投手となり、新人王と沢村賞も受賞した。
 フリーエージェントの権利を行使して2009年に渡米。オリオールズ、レンジャーズを経て2013年シーズンからレッドソックス。切れ味鋭いスプリット、制球の良さなどが評価され、レッドソックスではシーズン途中から守護神として定着し、大リーグでは自己最多となる21セーブを挙げた。自身初のワールドシリーズ。レンジャーズ時代の2011年は、優勝決定シリーズでポストシーズン初の3戦連続被弾という屈辱を味わい、ワールドシリーズはメンバーから外されていただけに、まさに雪辱の舞台。その大舞台では、第4戦の九回に登板して1回を1安打無失点で締めて、ワールドシリーズでは日本投手初となるセーブを挙げた。活躍を続ける38歳は「いつかはアマチュアの指導者にもなってみたい」という。その夢の実現は当分、先になりそうだ。=敬称略(昌)