次世代に伝えるスポーツ物語一覧

2013-6-10

フィギュアスケート・山田満知子

2013年6月10日

 いまや世界で最もフィギュアスケートが盛んな地域の一つとして知られる愛知県名古屋市。数多くの名選手を輩出してきたが、名古屋スケート界を語る上で、欠かすことができないのが、山田満知子コーチの存在だ。
 名古屋市で生まれ、7歳でフィギュアスケートを始め、女子シングルスで国体やインターハイで優勝したこともある山田だが、当時はスケートへの思い入れはそれほど強いものではなく、大学進学後には現役を引退していた。ところが、愛知県スケート連盟の手伝いを始めたころから状況が変わる。地元の人たちから請われて子供たちの指導を始め、徐々にコーチ業に力を入れることになったのだ。
 運命的な出会いが待っていたのは1974年、30代にさしかかったころのことだった。当時の日本スケート界の中心は東京だった。「東京の人たちには負けたくない」との思いを胸に、名古屋市内のスポーツセンターで指導に当たる山田の目に、毎日一人でリンクに来ては熱心に滑っている少女の姿が留まった。当時5歳の伊藤みどりだった。
 その才能を見抜いた山田は徐々に伊藤との関わりを深め、ついには伊藤を自宅に引き取り、実の娘同様に公私ともに面倒をみた。そして、世界で初めてトリプルアクセルに成功した女子選手に育て上げ、1992年のアルベールビル冬季五輪では銀メダルを獲得。「東京の人」はおろか、世界中に名を知られるコーチの仲間入りを果たした。
 とはいえ、山田は成績を最優先に考えるタイプの指導者ではない。「私の仕事は底辺の拡大」と語り、まずは礼儀やしつけを重視する。それでも、選手の個性をしっかりと把握し、家族がスケートに口を出すのも大歓迎する独特の指導法で、その後も、小岩井久美子、恩田美栄、中野友加里、浅田舞、真央姉妹ら、トップ選手を続々と輩出してきた。現在は2014年ソチ冬季五輪出場を目指す村上佳菜子を指導する。その功績は普及面だけでなく、強化面でも光り輝いている。=敬