次世代に伝えるスポーツ物語一覧

2011-12-27

女子マラソン・野口みずき 復活へ

2011年12月27日

 「元のリズムが戻ってきた。手応えはある」。2011年12月、合宿先の米コロラド州ボルダーから帰国した野口みずきは、こう言って表情を和らげた。2カ月前には、実業団女子駅伝西日本大会で約10カ月ぶりにレースへの出場を果たし、3区(10・2km)を区間1位の32分25秒で走って復帰を飾っていた。女子マラソン五輪2連覇を懸けた2008年北京五輪を、左脚付け根の故障で欠場して以来、度重なる故障に悩まされ続けてきた野口に、ようやくあの力強い走りが戻りつつある。
 これまではまさに故障の連続だった。2010年秋に、2年5カ月ぶりに実戦復帰を果たしたものの、12月に左足首付近を疲労骨折。それがようやく癒えると、今度は左臀部を肉離れ…。「何度も諦め掛けた」という。それでも「マラソンで本格的に復活できたところをたくさんの人に見てもらいたい。諦めない姿を見てもらいたい」という思いが自らを支えた。テレビ観戦した11年世界選手権(韓国・大邱)で、ケニア勢が表彰台を独占する状況を目の当たりにし「燃えてきた。スピードと持久力をさらに高めて負けないようにしたい」と誓った。その思いに応えるように、世界選手権が開幕した8月の月間走行距離は久しぶりに「1000キロを超えた」。その後、11月にオランダで行われた15kmロードレースでは、左膝に違和感を訴え、周囲を冷やっとさせたが、大きな問題はなく、その11月も900キロ前後を走ったという。
 大邱では、日本勢は勝負にも絡めず、外国勢との間に力の差を痛感させられた。だが、身長150センチと小柄ながら、大きなストライドで力強く進む野口本来の走りがよみがえれば、ロンドンでの視界は広がる。もちろん、いまだ左脚付け根に再発の恐れがなくはない。そのリスクを考えれば、持ち前の大きなストライドを狭めて、代わりにピッチで稼ぐという方法もあろう。だが、「リスクを恐れてフォームを変えても、それは私の走りではない。練習でも故障を怖がっていては、上を目指していけないですから」。野口はあくまでも世界に視線を注ぐ。五輪切符をかけて出場を予定する大阪国際女子マラソンは、北京五輪代表選考会を兼ねた2007年11月の東京国際女子マラソン(当時)で優勝して以来のフルマラソンとなる。その大阪には、トラックの女王としてならし、10月のシカゴマラソンで2度目のフルマラソンを走り、2時間24分台をマークした福士加代子も参戦予定で、復活をかけるには申し分のない舞台となりそうだ。
4年前、スタートラインに立つことすらできず、悲嘆に暮れた舞台、五輪へ。自らの走りを取り戻すために、人一倍の努力を惜しまずにきた33歳の五輪女王が、再び思いをぶつけるべく再びスタートラインに立つ。=敬称略(昌)