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2015-2-23

『守備的オープニングについての考察(後半)』

 前回2回までのコラムでは、トランジションによる守備局面、そして守備的オープニングのレベル分けなどについて考察した。本題のまとめ(後半)となる80号では、守備的オープニングの各レベルに応じて、それぞれのトレーニング性質を考える。守備に重点を置いたトレーニング構成のための、論理的なアプローチについて整理してみる。まずは以下に、4つの守備的オープニングレベルを復習のためにリストアップする。守備的トランジションが発生すれば、原則として守備側には4レベルのオープニング対応が可能となる。

◆4つの守備的オープニングレベル
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◆守備的オープニング①『反撃レベル』

 チームがボール権利を失っても、まずはそれを奪い返すことを優先とする。守備側ながらも積極的なアクションを起こす、攻撃的なオープニングレベルを指している。守備的オープニングの中でも最も積極的で、ゲームに対してリスクを背負って果敢にアプローチすることが特徴だ。またハイプレスなど高い位置でプレスを実行する場合なら、リスクも少ないためにアクティブにボールにチャレンジすることが可能となる。また試合で負けている状況や、特定の相手に対しては、高い守備から積極的にボールを奪い返すチャレンジも有効な選択肢だ。

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『反撃レベル』トレーニング例

 攻撃側のチームがシュートなどにより攻撃をフィニシュする瞬間、その直後にボールを投入するなどしてリスタートを連続発生させる。リスタートのタイミングと種類は、指導者が巧みに操る。原則として、攻撃側に若干有利なリスタートにすることが可能だ。同時にボールを奪ったチームにもいくつかの制限を加え、守備側がボールを奪い返す可能を高める工夫をする。従来のように、攻守の切り替えが発生したらすぐに撤退、遅延、決断、実行というアクションサイクルに陥らない。この反撃レベルでは、まずは失ったボールに対してアプローチすることをインプットすることが大切だ。試合に負けている場合、特定のライバルに対しては、ボールを失ってもすぐに奪い返すチャレンジが必要となることも想定できる。またライバルの攻撃的オープニングに対応して、主導権を握るためにアグレッシブに守備を試みることも大切だ。

◆その他のヒント

A)ボールへのプレスを簡易にする

B)GKの積極的な守備への参加を助長する

C)ルールやサイズによりロールチェンジを起こす

D)ボールロスやインターセプトを引き起こす

E)素早いリスタートに工夫を施す

F)アグレッシブな守備的態度を助長する

G)攻撃側に対抗する守備戦術を助長する

H)高い位置でのボールロス(リスタート)

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◆守備的オープニング②『阻止レベル』

 守備的オープニングにおける『阻止レベル』では、ボールに対してやや保守的なアプローチがとられる。ボールを失った瞬間、まずはボールホルダーの自陣ゴールへの直進を妨げることが優先となる。数的不利の中でも、守備のバランス構築することが優先目的となる。ボールを失った守備側はアグレッシブなアクションよりも、戦術的に時間を使い守備組織を有利に行なう。

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『阻止レベル』トレーニング例

 このオープニングレベルのトレーニングでは、攻撃側に多少なりのアドバンテージを与える。同時にトランジションの瞬間に、守備側の選手にわずかなディレイ(遅れ)が発生するように工夫する。特にボールホルダーに対するプレッシャーを瞬間的に解除するなど、工夫の種類はさまざまだ。また守備側にも知覚認識条件を負荷することで、実戦での守備撤退や遅延行為などの決断実行をより高度にする。カウンター攻撃のプロセスを助長するために、一定レベルでの攻撃的オープニングは保証する。従来でのトレーニングで最も重要視されてきたのが、この『阻止レベル』そして次の『対応レベル』だろう。ボールスポーツの攻守の切り替えにおいて、戦術的に優先して熟成させる必要があるのも、この2つのオープニングレベルだろう。

◆その他のヒント

A)選手の入れ換えなどで守備撤退プロセスを複雑にする

B)複数色などで複雑なロールチェンジ(ディレイ)を起こす

C)守備組織プロセスを困難にするエレメントを導入する

D)刺激などによる守備ライン(1列目)の破壊

E)守備選手のアクティブ化、非アクティブ化

F)外部刺激による守備システムの変化など

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◆守備的オープニング③『対応レベル』

 この対応レベルは、守備ラインが壊された状況を想定した、守備修復プロセスを含んでいる。ボールホルダーのゴールへの直進を妨げながら、数的不利または乱れた守備ながらも、攻撃の理想的なフィニシュを防ぐ対応をとる。自陣内で相手のフィニシュアクションを未然に防ぐのだ。それを戦術的に実践することが求められる守備局面だ。一般的にトランジションのトレーニングで重点的にフォーカスされるのも、この『阻止レベル』そして次の『対応レベル』だ。たとえ保守的な考え方でも、ボールを失ったらまずは撤退して戦術的に対応することが優先される。守備戦術としては、この2つのオープニングレベルの成熟が優先される傾向にある。

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『対応』トレーニング例

 この守備的オープニングレベルでは、数的不利を前提として、ボールホルダーに対する守備にも不均衡を引き起こす。また異なるルールなどを用いて、守備側選手は必ず1人試合に関与できないルールなどを設定する。守備バランスを大きく崩すことがポイントとなる。例えば座りルールなどにより、守備側の選手に数的不利を引き起こす。または守備の位置関係を崩したリスタートなど、数的不利を流動的に発生させる。攻撃側にフィニシュの可能性を与える中で、守備の戦術対応の難易度を引き上げる。このレベルでは、守備組織の戦術的アジャストなど、複雑なトレーニングへの発展も可能となる。

◆その他のヒント

A)攻撃側に大きめのスペースを与える

B)守備側のポジションを崩しながらの撤退

C)流動的に数的不利を発生させる

D)外的フリーマンにより攻撃側を有利にする

E)エキストラボールなどの刺激によるゲーム複雑化

F)守備ライン(全体)を外部刺激により破壊する

G)守備選手のアクティブ化、非アクティブ化

◆守備的オープニング④『緊急レベル』

 守備的オープニングにおける緊急レベルの代表例が、リバウンド、こぼれ球、キーパーが転んだ後のセカンドアクションなどだ。攻撃側がフィニシュ動作を行なう前後の状況、その緊急対応を想定したオープニングレベルを指している。そのスピードと緊急性のため、戦術守備よりも反応スピードと個人戦術による決断が大きい。守備トレーニングの構成では、フィニシュが発生しやすい状況の中で、GKを含めた全体で攻撃側のフィニシュへ緊急対応する。またはフィニシュ直後のリバウンドやセカンドボールに、素早く対処する状況を作り出す。フィニシュ直後、攻撃側の素早いリスタートなどを引き起こすことで、守備側はクイックプレーなどの対処を習得もできる。従来の一般的なトレーニングではあまり重要視されないが、リバウンド状況やこぼれ球からの状況は、実際は多くの球技において得失点の大きな鍵となっている。

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『緊急』トレーニング例

 緊急レベルでは、まずは攻撃側にシュートチャンスを多く設定する。攻撃側のパスラインを増やしたり、ボールを増やす、またはフリーマンの投入など、守備を困難とするアイデアは様々だ。数的同数からならば、突然守備の選手を1人無効にすることで、攻撃側が比較的簡単にフィニシュ局面に移行することもできる。フィニシュを引き起こした次は、攻撃側へのセカンドボールの投入などで連続的に緊急レベルのオープニング強化をする。 その他のアイデアとしては、オープニングをフィニシュ局面にする。フリースロー、フリーキック、ペナルティーなど、フィニシュを含むオープニングから、インテグラル形式のトレーニングへと連結する。そのようにフィニシュ局面が繰り返されるトレーニングを複数結合させることも可能だ。このようなトレーニングメニューを通して、守備側は常にフィニシュ前後の緊急局面に対応する能力を発達させる。

◆その他のヒント

A)フィニシュチャンスを助長する

B)守備のポジションを崩す

C)混沌としたゲーム状況を作りだす

D)フィニシュ前後のリバウンドを作り出す

E)フリーマンなどを用いて攻撃を助長する

F)外部刺激による守備の非アクティブ化

G)攻撃側にエキストラボールを供給

H)ボールの種類などを変化(リバウンド性質の変化)

I)エキストラボールにより複数の局面を発生させる

<現象の分類・理論化を通して選手をより強くトレーニングへと引き込みたい>
まとめ(結論)

 ボールスポーツの真剣勝負では、2度と同じ状況は再現されない。またどのような状況から得失点が発生するかも、簡単には予測できない。攻守が切り替わるたびに、つまりトランジションが発生する度に、異なる形でのオープニングからゲームは継続される。そのため指導者には、豊富かつ複雑なオープニング状況をトレーニング環境の中から再現したい。同コラムでは、守備的オープニングをトレーニングに落とし込むために、各オープニングレベルの分類などを試みた。守備的オープニングを4レベルに分類することで、トレーニングの性質にも意図的に変化を与えることが可能となる。またこのような種類分けにより、トレーニングの整理および計画がより明確になるだろう。

守備トレーニングへのアプローチプロセス
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 選手は多くの試合を通して、ゲームの性質を理解することを習得できる。ゲーム中の異なる局面に対応する能力を、多くの試合経験を通して習得するのは自然のことだ。しかし指導者にはトレーニングによって、その学習プロセスを促進させることが求められる。守備的オープニングも同じことだ。、各戦術レベルを取り込んだトレーニングの中に、各守備オープニング要素を落とし込むことで、選手の守備オープニングにおける対応力を促進できる。

 指導者にはあらゆるトレーニング計画を作成するにあたり、各コンセプトを整理して選手に明確に伝達することが求められる。選手が各トレーニングにポジティブに取り組めば、その効果が倍増することは容易に想像できる。いかなる形式のトレーニングを、何を目的として、どのような方法論でアプローチするのかを選手に伝えることも大切だ。選手がトレーニングの意味と目的を理解することで、よりポジティブに参加することが期待できる。守備へのアプローチを行なう場合、特に選手達に明確なプランを提供することで、効率化をはかることも可能となる。