後楽園の「スッポン鍋」〜長嶋茂雄監督 インタビューの思い出
通常は野外の競技場や体育館などのフィールドで、活動する機会の多いスポーツ専門カメラマンも、時にはその流れのなかで選手インタビュー時の撮影も担当するのが常だ。
某年某月、日比谷の高級Tホテルにて、スポーツ専門誌企画、読売巨人軍「長島茂雄監督」の単独インタビューが組まれた。監督、球団関係者、広報担当者、副編集者、編集者、営業担当、ライター、カメラマン、アシスタント、総勢で10余名にもなろうか、広いスイートルームが一杯になった。
ほどなくして、ホテルのウェイターが飲み物の注文を取りに来た。監督、目を細くしてメニューを睨んでいるのだが、どうもはっきり見えないらしく、いきなりメニューを閉じて「僕は絞りジュースがいいな!」と告げた。ここは笑えるタイミングだが、緊張してか、誰一人笑わない。「いい味出してるな、この人。」僕は緊張がほぐれた感じがした。
インタビューも和やかな雰囲気の中で無事終盤に近づき、帰り際に監督は「腹が減った。」と言いだした。編集者が「何かルームサービスを」と勧めたが、監督が「皆さん、どうですか、中華料理行きませんか!すぐそこ!」ということになった。
「カメラマンさんも一緒にメシ行こうよ!ねっ!」
「えっ??はっ、はい!」
中でも長髪、無精ひげに穴あきジーンズのひときわ見苦しい我がアシスタントに対しても、
「ねっ、君も行こうよ!スッポン好きでしょ?ねっ、ねっ!」と半ば強引に誘っている。
この人が何故、人望熱く、フアンにも好かれるのか、誰にでも愛され、人気があるのか。
決して上下関係を付けないし、子供のように純粋な人なんだ。そんな性格の一片を垣間見た気がした。かくして我々は、皆、恐縮しながらも、後楽園飯店にてスッポン鍋をご馳走になった。
僕は後にも先にも「スッポン」を食べたのはこれっきりだ。
1953年7月25日生まれ 東京都板橋区出身
【経歴】
学生時代の夢はアートディレクター。趣味は機械式カメラのレストア。
経歴:武蔵野美術大学 造形学部 商業デザイン科卒業。
これまでに総合スポーツ誌「Number」その他でカメラマンとして活動。
得意分野は、野球、サッカー、水泳。