インテリジェンスと個人戦術の背景にあるもの
個人戦術とは、目の前にあるゲーム局面の問題に対する解決能力である。当然ながらインテリジェントな選手になるためには、知覚認知をベースとした、この個人戦術のレベルを高める必要がある。戦術理解と技術習得をふまえての知覚認識能力だが、ライバルとの距離感や解決方法の模索にも大きな役割を果たす。概して知覚認知を向上させれば、個人戦術は大幅に発展できる。『PDAサイクル』または『OODAサイクル』と呼ばれる、知覚認知から技術実行までのサイクルと個人戦術は深く関係している。1人で問題を解決するための戦術として、個人戦術と表現されている。それでは個人戦術の向上には、どのようなエレメントが存在するのだろうか?
①オフボールでの体の向きや手足の出し方
②攻撃または守備サポートの立ち位置
③移動方向、スピード、方向転換、スピードチェンジ
④広いゲーム視野の確保、距離感
⑤ゲーム全体の先読みアクション
⑥スペースの認知、開放、利用、攻略
このようなエレメントを駆使することで、ゲームにおける個人戦術は向上する。それに加えて、しっかりと認知、決断を下すことで、技術実行パフォーマンスは大きく向上する。当然ながら技術実行の部分は、アナリティック精度での技術能力、純粋なフィジカルコンディションなどに左右される。そして前回のコラムでも述べたように、選手の自信、やる気、リスク管理、冷静さ、知識、経験、記憶なども個人戦術に影響を与える。つまりは個人戦術の向上には、①戦術、②技術、③体力、④メンタル、の全てが必要とされる。
インテリジェンスを兼ね備え、個人戦術に優れ、技術や体力も安定し、強いメンタルを持ったとしても十分ではない。実戦経験による成功・失敗の分析から記憶を蓄積することも必要だ。そして知識を学び続け、情報を追求することも、素晴らしい選手の条件となる。ゲームにおける戦術や情報を知ることは、ゲームを技術・戦術的に解決する能力と同じように大切だ。そこには戦術プロセスだけでなく様々な要素が求められる。
①知覚器官の発達
-コートにおける中心視野と周辺視野の発達
-モバイル触覚(ボールタッチ)やピッチコンタクトの向上
-ゲーム局面でのバランス感覚、スペース感覚
②ゲーム認知力
-状況認知によるゲームの理解、応用、解決力
-ゲームインテリジェンス、記憶、ひらめき
-ゲームを通じての順応、修正、学習の能力
③個人の性格とメンタリティー
-自分への自信、安定感、意欲
-アグレッシブさと思いっきりさ
-ストレスへの耐久力と持続性
-リスクやストレスとの向き合い方
④社会そして家庭における教育背景
-個人としての家庭、社会教育からの価値感
-自分を知っているか、自己制御ができるか
-自己貢献ができるか、どれくらい根気強いのか
-集団ではなく個人としての決断能力があるか
⑤フィジカルとテクニック
-技術的能力と適応能力
-フィジカル能力と回復能力
-ゲームを操るテクニック
-戦術をカバーするフィジカル
-コーディネーション能力
-アジリティー・パワー
⑥社会的キャパシティー
ここで様々なエレメントを述べたが、それらは選手の社会的キャパシティーを備えて初めて発揮される。ここでの社会的キャパシティー(社会性)とは、集団スポーツとして仲間と協力したり、対戦相手との駆け引きを行なう能力のことである。この社会性とは、大きな視点で見ればコミュニケーションの一種となる。ミーティング、ロッカールーム、試合前の移動、チームでの食事、練習外におけるチームで過ごすコミュニケーションの時間も社会性を強める鍵となる。
戦術的にもボールスポーツであるため、2人組、3人組、4人組とあらゆる集団戦術において、この社会性(コミュニケーション)が力を発揮する。また選手間だけでなく、スタッフ、指導者、観客との関係の向上にも同じく社会性が必要とされる。競技レベルが上がり、ゲームがより複雑な局面を作るようになれば、チームには高い社会的キャパシティーが求められる。
このようなインテリジェンス、個人戦術、フィジカル、テクニック、メンタリティーやその背景にあるエレメントを日々向上できる場所が、『本当のトレーニング環境』である。筆者の意見ではあるが、スポーツに従事する時間が少ない現代社会において、トレーニング環境が占めるウェイトは高まる一方だ。